2週間の連休は夢じゃない。夏休みを心置きなく取る方法とは
有給休暇は年間30日、2週間以上の連休が義務化されているフランス。うらやましい限りの「バカンス大国」ですが、もともとは日本と同じように「休めない国」だったといいます。「フランスだからできる」ではなく「どうすれば日本でも休めるのか」を考えてみませんか。夏休みの計画にはまだ間に合います!
日本では勤続年数によって付与される年次有給休暇の日数が決まっており、最大で20日。厚生労働省の就労条件総合調査によると、2022年の平均取得日数は10.3日でした。
一方、フランスでは労働法で年間30日間の年次有給休暇が定められています。フランス労働省統計局の報告書によると、それ以外の有休も含めた2015年の年間平均取得日数は33日でした。
日本人の3倍以上も休んでいるといえそうなフランス人ですが、今から100年近く前までは休むことに否定的な世論があったそう。「フランスもまた、休めない国だったのです」というのは、新刊『休暇のマネジメント』を出版したフランス在住の髙崎順子さん。どうすれば心置きなくバカンスを取れるのか、聞いてみました。
全員が2週間の連休
ーー勤勉とされる日本人と、バカンスを楽しむフランス人。対極のようなイメージが先行していますが、フランスの休暇の実態を教えてください。
フランスでは1936年に連続2週間の年次休暇制度が公布され、交通費の補助やリゾート開発など、バカンスのためのインフラ整備が国家事業として進められました。その後、法改正ごとに休暇日数は増え、1981年に5週間となりました。
国の労働法で、日曜祝日を除く週6日を5週間、つまり30日間の年次休暇を、職種や業種、雇用形態や勤続年数を問わずすべての従業員に取得させることが雇い主の義務となっています。
しかも夏のメインの休暇は、連続して2週間以上の取得が必須です。法律上は5月1日から10月31日の間にすべての従業員が最短2週間、最長4週間の連休を取ることになるのです。
ーー全従業員が決められた期間内に2週間ずつ順番に休むとなると、業務の調整が大変そうです。
フランスの方たちはもはや毎年の習慣としてやってはいますが、かなり大変です。夏のバカンスのために組織をあげての早めの段取りが不可欠なんです。
雇い主は法律上の取得期間内で、組織全体での取得可能期間をあらかじめ指定します。全従業員の休暇のスケジュールを事前に把握して、生産調整や人員配置を計画するのです。
このためフランスでは、大事な商談や大規模なプロジェクトは夏に持ち越さないのが不文律。保育園も早めに休園期間を決めるため、働く親たちはそれに合わせて休暇を取ることになります。
また、業種により差はあるものの自営業者もきちんと休んでいます。平均休暇取得日数は年間32日で、サラリーマンとほぼ変わりません。
国民の生活に欠かせない調剤薬局やパン屋などは近隣で持ち回り営業をする風習があります。なかなか休みづらいのは自営農家ですが、共同経営をしたり代替要員の派遣を受けたりしてやりくりしています。
休まないのは悪いこと
ーー休暇の優先度が高いということが社会全体で共有されているんですね。休む意義のとらえ方が日本とは根本的に違う気がします。
日本では高度経済成長期に「働くことはいいことだ」という価値観が強化され、最近になって「休むことはいいことだ」という考えに次第にシフトしてきました。
2019年の働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制ができたことや、年次有給休暇のうち5日間の取得が義務化されたことも大きいのではないでしょうか。
ただ、日本の休暇はやはり「休息」の意味合いが強いです。休むのは身体を休めるためであり、仕事のパフォーマンスを上げるため。経済合理性が優先されているのです。
フランスの場合は、1936年に年次休暇制度ができたころから一貫して、休暇は生きる喜びであり、人としての尊厳を知ることができる時間であるというスタンスでした。なので1日や2日の「休息」ではなく「まとまった休み」を取れなければ、人権に関わる問題だとされるのです。
日本ではようやく「休むことはいいことだ」となってきましたが、フランスでは「休まないことは悪いことだ」。これが休暇のとらえ方の大きな違いだと感じています。
ーー日本では取得が義務化された5日間の有休でさえ、人事や管理職が何度もリマインドしてようやく表向きは消化させているような企業が少なくありません。
フランスでは、休暇の取得そのものが優先度の高い「業務」ですから、部下をバカンスに送り出せない上司は無能で、業務管理がダメダメだという烙印を押されます。計画的に休暇を回せないのはマネジメントの問題であるということが明確に共有されています。
ただ、日本の中間管理職の人たちにこのことを話すと、「それはさすがにつらすぎる」という反応があるのも理解できます。
上からは「部下を休ませろ!義務だ!」と言われるけれど、仕事のやり方は変わらないし業務量も変わらないので、部下を休ませるためには自分が水面下で業務を肩代わりしなければ仕事が回らない。そうやって板挟みになって疲弊している中間管理職が多い状況なのに、さらに無能とまで言われたら、それはたまりませんよね。
フランスは仕組みがあるので休みを調整できないのは管理職の責任だと言えますが、仕組みがない日本ではまず仕組みをつくらなければならないと感じています。
「最低保証」と「持続性」の責任
ーー確かに自分の業務量だけを考えても、休むとそのぶん大変になるから、休まないほうが楽だと感じることもあるくらいです。
そうなんです。決して片手間で休めるわけではなく、必死で段取りをして休むものなんです。
フランスでバカンスの期間にも業務やサービスが回っているのは、「最低限これだけはやろう」というラインを決めているからです。バカンスではない期間は、最低限ラインから業務を上乗せしていくスタイルです。休むことを想定した目標設定になっています。私はこれは「最低保証の責任」だと思っています。
一方で、日本のビジネスシーンでよく使われている言葉は「最善」ですよね。常にベストパフォーマンスを出して、表面張力パンパンのまま維持し、さらに成長が求められるわけですから、休暇を入れ込む余地がないんです。
最低限やるべきことのラインを決めていなければ、人手が足りなくなったりメンバーが1人いなくなったりするだけでも、「業務が回っていない」ということになる恐れがあります。そのせいでサービスを提供できなくなるなど「最低保障の責任」までも果たせなくなっては元も子もありません。
ーーそこで業務が回らなくなると「やっぱり俺がいなければダメなんだ」という人が出てきそうだと想像がつきます......。
ありがちですよね。
もちろん、この人だからこそできるという個別性や専門性は、成果を上げていくうえでは強みになります。ただ、業務の属人化は組織のリスクになり、本人のリスクにもなるということは同時に考えておかなければなりません。
自らが組織にとって役立つ人材だというのであれば、継続的に働き続けるという「持続性の責任」も果たす必要があります。人間は機械ではないので、働き続けるためには休まなければなりません。休みを取らなかったせいで心身が不調になって仕事に戻れなくなるのは本末転倒です。
自分が代替不能で不可欠な存在でいたいというエゴが、無駄な仕事を増やす方向に作用していないか、働き方を見つめ直してみてほしいです。「最低保障の責任」と「持続性の責任」を果たすためにも、「休まないのは悪いことだ」という考え方を日本で広めていきたいです。
ーーとはいえ、いきなり2週間の連続休暇を取れたとしても、慣れていないのでどうしていいかわかりません。不安でついパソコンを開いてしまいそうです。
実は私もこの本を書くまでは最長1週間の休暇しか経験したことがありませんでした。仕事で遅れをとる不安と、事前に仕事を調整するわずらわしさがあったからです。パソコンをバカンス先に持参し、1週間が過ぎると夫や子どもは遊んでいるのに自分だけ仕事をしていました。
2022年の夏、初めて2週間まとめて休もうと決め、パソコンを封印しました。緊急のメール以外は返信もしないことにしました。たまっていた本をゆっくり読んだり、家族と自然の中で思いっきり遊んだり、1週間の休みではできなかったことをとことんやりました。
「1週目で休みに慣れて、2週目で完全に休める」と聞いていたのですが、2週間後にパソコンを開いたとき、「この感覚か!」と驚きました。完全に休み切って満たされていたので、仕事に戻れることが楽しくて仕方がなかったんです。1週間と2週間は大きな違いがあると感じました。
ーー休暇を取ることによって個人のQOL(クオリティ オブ ライフ=生活の質)が上がることに加え、長期的なメリットはあるのでしょうか。
きちんと休める社会では、若者がキャリアに夢を抱きやすくなるのではないでしょうか。
若手が管理職になりたがらない理由として調査などであがっているのは、責任が重くなることのほかに、業務量が増えることやワークライフバランスを取りづらくなることです。親が働き詰めでいつも疲れた顔をしているのを見て子どもは育ちます。
上司や親など、大人が人生を楽しんでいるように見えないと、仕事の価値や働くことの喜びを見出しにくくなってしまうのではないでしょうか。
休むことと働くことはセットです。休みについて考えることは働き方の発想の転換になります。まずは、休暇について身近な人と話してみるきっかけにこの本がなるといいなと思います。