画用紙を開くと花が咲く。つくり手の感動を生み出す唯一無二のアート
視覚だけでなく聴覚や嗅覚でも楽しめる体験型アートの展示会が東京・青山でひらかれています。「やさしさの花」をテーマに、色、音、香り、手触りなどで新たな発見があるアートの数々。あなたはどれが好きですか?
指を動かせなくても
会場に入ると、色とりどりの花びらが壁一面に広がっています。
「やさしさの花」と呼ばれるこのアートは、画用紙に絵の具を垂らし、半分に折ってから開く手法を用いたもの。筆などの道具をもたなくても手軽につくることができます。
この手法を「ダイバーシティアート」として確立したのは、社会課題をアートで解決することを目指すグローバルアートチーム「LITTLE ARTISTS LEAGUE(リトル アーティスト リーグ)」。2021年夏、障害がある子どもたちとワークショップを開いたところ、寝たきりの子も、指先がうまく動かせない子も取り組むことができたといいます。
つくり手すらも予想できない偶然の色の交わりがあるため、二度と同じ作品は生まれない、唯一無二のものでもあります。
代表理事のルミコ・ハーモニーさんはこう話します。
「努力したり練習したりすることも素晴らしいですが、そのスタート地点にすら立てない子もいます。ダイバーシティアートは、年齢や個人の特徴に関係なく、つくった本人が感動する作品を生み出すことを目指しています。多様な人たちに作品を生み出す過程を楽しんでもらいたいです」
色を音に変える
また、目の見えない人にとっても楽しめるアートという観点から、会場には「音」と「香り」で表現した展示もあります。
視覚障害のある人たちの意見から、「色を音に変換する」という試みをスタート。「やさしさの花」の画像を取り込んだパソコンからは、色を表現する音を聴くことができます。
やさしさを「香り」で表現したアートは6種類あり、ドームを開けてかぐことができます。
「視覚だけでなく、さまざまな感覚でアートを楽しんでみてください」
香りのアートを制作した日本オーガニックアロマ協会(JOAA)の代表の近田梨絵子さんは、そう呼びかけます。
近田さんの娘は低体重で生まれ、NICUに2カ月間、入院しました。退院のときの検査で「目が見えないかもしれない」と医師から告げられました。
仕事の選択肢を増やす
「結果的には弱視だったのですが、発達の遅れもあったため、当時は私自身も暗闇にいるような感覚になりました」
娘が療育に通うようになってからしばらくしたある朝、施設で香りがたかれていることに気づいた近田さんは、気持ちがスッと前向きになるのを感じたそうです。人を癒やすだけでなく、ポジティブにすることもできる香りの力に魅了され、アロマの資格を取得しました。
近田さんは、将来娘が働くことも想定し、福祉作業所にアロマオイルなどの製造を委託する活動もしています。
「作業所では限られた作業しか任せられず、選択肢が少ないことがあります。やったことがないからできないと決めつけるのではなく、できるように仕組みを考えるのが私たちの役目ではないでしょうか」
例えば、ボトリングの際に見やすい計量カップに変更したり、高さをそろえやすくなるよう目印をつけたりと、障害のある人が働きやすいよう仕組みを工夫。全国各地で廃棄される予定の間伐材や柑橘の皮などから抽出した和精油のブランド「Muku」を立ち上げ、地方の作業所で仕事を生み出す活動もはじめています。
体験型展示「ダイバーシティアート やさしさの花展」は2022年10月16日まで、東京都港区のITOCHU SDGs STUDIOで開かれています。ワークショップは予約制。詳細はこちら。