「今日は俺が払うね」が要注意のとき、最高なとき。新しい"ワリカン"のかたち

小林明子

デートで楽しい時間を過ごしたのに、最後に会計をするところでなんだかギクシャク。支払いをどうするかは、SNSでも繰り返し議論が白熱するテーマです。「対等な関係でいたいからワリカンにしたいと思っていた。でも......」。ワリカンについて独自の視点で考察する文筆業・クリエイターのはましゃかさんと一緒に考えました。

おごったときの本音

デートや飲み会の支払い、どうしていますか? OTEMOTOが2023年3月にアンケートを実施したところ、さまざまな意見が寄せられました。

そこで浮かび上がってきたのは、支払いのときの行動と本音にずれがあるケースでした。

【30代 女性】一緒に食事をしたときに半分払おうと財布を出したら、「俺がみっともなく見えるからやめて」と言われた。でも後日「自分ばかり支払ってる」と文句を言われた。

【30代 男性】支払うつもりでも、当たり前のように相手が財布を出そうともしないと、なぜか釈然としない。

【30代 女性】お互いに同額を出し合って「共同財布」をつくっているが、男女で収入差があるため、家賃や生活費など大きな支出は不平等にあたる感覚がある。

支払い後、なぜかモヤモヤとした感情が残ることも。お互いに納得のいく支払いの方法はあるのでしょうか。

アンケートでいただいた意見をもとに、はましゃかさんと考えてみました。

「実は、ワリカン推進しなくなりました」と語るはましゃかさん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ワリカンにこだわった結果

ーーはましゃかさんは2018年9月に「ワリカン推進委員会を発足します。」というコラムを書いています。その後もワリカンにまつわる感情について独自に研究を続けているそうですね。

はましゃか:コラムを書いたのは大学生の頃のある”事件”がきっかけです。女子高を卒業した私はモテテクを研究し、男性からおごられることに慣れていました。当時付き合っていた年上の彼氏にも当たり前のようにデート代を払ってもらっていました。

ある時、彼とスーパーで買い物をして支払いをする場面で「俺が払う代わりに、これからもご飯を作ってくれればいいからね」と言われたんです。サーーーっと血の気が引くのを感じました。

それを境に、彼にお金を払われると対等な関係ではいられなくなる気がして、デートが楽しくなくなってしまいました。

年上の彼と別れ、同級生と付き合い始めてからは自然とワリカンになったこともあり、デートだけでなく仕事関係の会食でもワリカンを申し出るようになりました。ワリカンにすれば相手と対等でいられるという安心感がありました。

ーーアンケートでも、はましゃかさんと同様の経験をした女性たちから、おごられると対等な立場でいられなくなるようだという懸念が多くありました。

【20代 女性】マッチングアプリで会った年上サラリーマンと食事。自分の分を払おうとしたら「いやいや」「いやいや」「いやいや」と無限ループしたためおごってもらった。お店を出ると告白され、断ったら「じゃあなんでさっきおごらせたの?」とまっすぐな目で聞かれた。

【30代 女性】合コンで男性と同額を請求されると、「今日の女性メンツはハズレだと思われたのだろう」と思い込んでいました。「おごられる=女性として価値がある」という感覚があったからです。

【20代 女性】おごってもらうことによって相手と対等でいられなくなることが一番嫌。「対等でいられる権利」をお金で買っている

はましゃか:ところが、です。あれから数年たった今、私の感情には変化がありまして。

私はフリーランスで、お金を稼ぐことがあまり得意ではないので、働き始めて数年も経つと、ビジネスで成功した同級生とはどんどん収入格差が開いてきました。

それでも自らワリカンを推進していただけに、明らかに自分より収入が多い人や先輩にあたる人に対してもワリカンを申し出ていました。「私がやっとの思いで出すこのお札は、この人にとってはへっちゃらな額なんだろうな......」と感じることが多くなり、違和感を拭いきれなくなってきたんです。

相手から「仕事がうまくいっているから今日はおごるよ」と言われたら、頑なにワリカンを主張するよりも、「すごいじゃん!じゃあ素直にごちそうになっちゃおうかな。私も今お金に余裕があるわけじゃないし」と正直に言い合える関係のほうが自然体ではないかと感じるようになりました。

ーーワリカンだから対等だというわけではなく、おごられたとしても対等な関係でいられると気づいたということでしょうか。

はましゃか:もちろん今でも、ワリカンをデフォルトにしている人には安心感を覚えます。対等な立場だという前提で接してくれていると感じるからです。たとえ金額が折半でなくても、食事をごちそうになったらお茶をごちそうするような「お返しワリカン」はスマートだと思いますし、今はおごってもらうけど将来お金ができたらおごる「時を超えたワリカン」もありかもしれません。

一方で、男は女におごらなければならないというジェンダーロール(固定的な性役割)にとらわれている人や、おごったら見返りを求めていいはずだと考えている人もいます。

払うか払わないかや金額の多い少ないに関わらず、支払いのときの振る舞いそのものが、その後の関係に身構える必要があるかどうか嗅覚を働かせるチャンスなんだと思います。

関係づくりのスパイス

おごられることが多い私は、相手が気持ちよく払ってくれると、自分も気分がよくなります。

あるとき、男性と2人で会うことになりました。ふだん数人で遊んでいるときはずっとワリカンにしていたのに、「今日はデートだから俺が出すね」と言われて「カッコいい......!」と思ったんです。

そんなときは「彼を立ててあげたい」という感情と「男性を立てる行動はジェンダーロールにとらわれているのでは」という懸念とのせめぎあいが発生します。

日ごろは男性と対等に渡り合う生き方をしたいと思っていても、この人ともっと仲良くなりたいときにはそうもいきません。ダイエット中のお菓子とか、壁ドンでキュンとしちゃうなんて私!みたいな、罪悪感があるからこそ燃え上がるシチュエーションに近いでしょうか。

illustration by はましゃか

結局、「カッコいい!たくましい!ゴチです!」と私が言って、2人でゲラゲラ笑いました。私のことをよく知っている相手だからこそ、もともとのスタンスから逸脱した「プレイ」としてやりとりを楽しめたんですね。

彼のほうも「カッコいいと思われたい」という気持ちがあったようで、「ありがとう」と言われるよりもうれしかったそうです。「カッコいい」と言われたいためにおごる人と、「カッコいい」と言いたいためにおごられる人。それ以上に見返りを求めることもないので、お互いにハッピーな気分になれました。

何が何でもワリカンしなきゃと言っていた数年前の私からしたら想像できなかったでしょうが、いい関係をつくるためのスパイスとしてなら、おごったりおごられたりするのもいいなと今は思っています。

はましゃか
はましゃか / 文筆業・クリエイター・モデル
1994年北海道生まれ、多摩美大卒業。大学入学後、女子校と上京後のカルチャーショックを綴った自身のブログが話題となり、ar webで連載を開始。『サラダ取り分け禁止委員会』は朝日新聞等、多数メディアに取り上げられる。卒業後は『できる仕事が多すぎて困る…新卒フリーランスの20の仕事』と題してnoteで仕事を募集し、執筆・モデル・#しゃかコラ イラスト業などで日々奮闘中。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

「初回無料」が広げる関係

ーーアンケートでは「気持ちよくおごる」ための工夫を紹介してくれた人もいました。

【30代 男性】金額というよりは奢る回数がフェアになるようお互い意識している。

【30代 女性】支払いで揉めるくらいなら「ご馳走してあげたい」という時に外食をするのが良いのでは。

【30代 女性】月1回のご褒美ディナーは折半、気分が良い日はごちそうしてあげるという暗黙のルールがある。

はましゃか:お金を出すからこそできることってありますよね。例えば、自分の趣味に付き合ってもらうこと。

観たい演劇があるのに相手は興味がなさそうだったら「どうしてもあなたと観たいから、私が払うから一緒に行こう」と誘うと、お互いに気を使わずに済みますよね。そこから遊びや体験の幅が広がることもあるので、おごるほうは「推し」を紹介できるし、おごられるほうは「初回無料」の感覚。そんな、おごりおごられの連鎖って素敵だなと思います。

おごりの構造と似ているテーマとして、プロポーズについても最近よく考えています。

プロポーズってもともと、お金を出すほうから結婚を申し込むシステムだったのではないでしょうか。「一生ついてきてほしい」「海外赴任するから同伴してくれないか」「生活には苦労させないから」......などと、お金を出すことと自分の人生に参加してもらうことがセットだったように思います。

でも今は、どちらかがどちらかの人生に参加するのではなく、2人で一緒に人生を歩んでいこうというスタンスになってきていますよね。どちらからプロポーズしてもいいし、プロポーズしたほうが家計をすべて負担するとも限らないのに、今なおプロポーズは男性が責任を持ってしなければならないという意識が男女ともにあるようです。

ーーたしかに「女性からプロポーズしたかったのに、できなかった」という体験談も寄せられていました。

【20代 女性】私から彼にプロポーズしたいと事前に伝えていたけれど、男性はエンゲージリングをつけないし、何を贈ったらプロポーズになるのかわからなかった。結局、「女性に言わせたら男が廃る」と彼からプロポーズしてくれ、うれしかったけれどなんとなくモヤモヤした。男性が女性にリングを贈り、女性はお返しに時計などを贈ると聞くけれど、「お返し」ではなく対等に女性からもプロポーズできる手段があったらいいのになと思った。

はましゃか:女性からのプロポーズや同性婚のケースなど、もっと多様なプロポーズのイメージが共有されていけば、だんだん変わっていくかもしれませんよね。

プロポーズの楽しみ方

おごるときと同様にプロポーズも対等な立場で相手とよりよい関係を築くためのコミュニケーションです。なので、片方が「申し込む」よりも「誘う」ようなスタイルがしっくりくる気がしています。「旅行、行きたくない?」と同じように「結婚、したくない?」みたいな感じで。

私、遊び方を考えるのが好きなんです。今思いついたんですが、プロポーズもクリスマスみたいにアドベントカレンダーにしちゃったらどうでしょう。

「プロポーズデー」を2人で決めて、その日までカウントダウンしながら毎日2人で順番にカレンダーの窓を開けていくんです。お互いが選んだジュエリーがどこかに入っていて、そこを開けたほうが身につけるとか。カップルでジュエリーを共有してもいいし、宝石だけ入れておいて後から指輪にしてもいいですよね。

アドベントカレンダーにはプレゼントだけじゃなくて「試練」も入れておきましょう。「相手が病気になった」とか「突然の失業」とか、結婚生活でふりかかりそうな重めのトラブルを2人でロールプレイングする機会になります。「宝くじで1億円当たった、どう使う?」なんてのも、相手の意外な一面を知ることができそう。

あとは、ボードゲーム形式にしてひとつずつミッションをクリアしていくのもおもしろそう。「相手のためにプレゼントを買って家のどこかに隠す」とか「目の前の人と結婚したいかどうか、せーの!で答える」とか、ゲームをしていたらそのままプロポーズができちゃいます。やばいな、そこで指輪なんかゲットしちゃったら......!

支払いのモヤモヤもプロポーズのジリジリも、本音を言葉にしづらいがために、ひとりでシリアスに考えてしまいがちです。その結果、自分や相手の気持ちを見つめるよりも、従来の型にはめたりジェンダーロールにとらわれてしまったりするのかもしれません。

正解なんてなくて、もっと自由であっていいはずなので、いっそのことイベントっぽくして2人で一緒に楽しんでしまえばいいのではないでしょうか。

目の前の相手とコミュニケーションし、どうしたらお互いがもっとワクワクできるかを考えることこそ、大切な人と一緒に生きていく中での素敵なひとときだと思います。

サプライズプロポーズを、もっと自由でハッピーに。

ダイヤモンドプロポーズ
BRILLIANCE+

長い間プロポーズの定番とされてきた「婚約指輪を贈るサプライズプロポーズ」。多くのカップルに支持される一方で、する人とされる人それぞれに「本当に正しいサイズやデザインの指輪を選べているのか」という不安、「好きなデザインじゃないけれど本音は言えない」という不満など、沢山の解決できないモヤモヤがありました。

二人が心からハッピーになる「婚約指輪を贈るサプライズプロポーズ」は、本当に実現できないの?

その想いから生まれたのが『ダイヤモンドでプロポーズ』。サプライズでダイヤモンドを贈り、デザインは後から二人で選ぶ。選択の幅を広げる、新しいプロポーズの形です。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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