国内2例目のゼロカーボン公立保育園をつくる大人たちの思い。「環境にもこどもにも優しい場所に」
公立保育園では日本で2例目となる「CO2排出量ゼロ」の保育園を、愛知県犬山市が建設中です。ところが、ゼロカーボンの設備に費用がかさんだため、予定していた遊具の設置が難しくなってしまいました。環境にもこどもにも優しい空間づくりのために、市の職員があの手この手で資金を集めています。
突然のゼロカーボン宣言
日本各地で公立保育園の老朽化が問題になっています。愛知県犬山市では約40年ぶりに、2つの保育園を統合して新しい子ども未来園(公立保育園)を建てることが決まりました。
2020年6月に建設予定地の選定がスタート。基本計画まで進んだところで、思わぬ展開がありました。
2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説で、2050年までに国内の温室効果ガス(CO2)の排出量を実質ゼロにすると宣言したためです。
環境省も、CO2排出量実質ゼロに取り組む自治体を「ゼロカーボンシティ」と定義し、自治体単位での取り組みを推奨しました。2023年12月現在、全国で1013自治体が「ゼロカーボンシティ」を宣言しています。
犬山市も2021年2月に「ゼロカーボンシティ宣言」を表明。2030年度までに市内のCO2排出量を26%削減することを目標に、公共施設は建て替えのタイミングでゼロエネルギー建築物(ZEB)」にすることになり、新しい保育園の設計も見直すことになりました。
ZEB(ゼブ)は、ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディングの略称で、省エネと創エネを組み合わせ、年間の一次エネルギー消費の収支をゼロにすることを目指した建物のこと。消費エネルギー量によって4ランクに分かれており、犬山市は最高ランクの「ZEB(フルZEB)」を目指しています。
犬山市子ども未来課課長補佐の青山貴一さんは、こう振り返ります。
「フルZEB仕様の公立保育園をつくる自治体は、奈良県三郷町に続いて2例目。参考にできる前例がないため、手探りの部分もありました」
「断熱のために東側と西側の窓は減らす一方、南側は大きな窓にして開放感をもたせるなど、こどもが過ごしやすい空間づくりを心がけました」
座っていられない
屋上に太陽光発電のパネルを設けたり、高効率の換気システムを採用したり、屋根や壁面、ガラス窓を高断熱化したりと、ZEBの達成にはさまざまな設備の追加が必要となり、その結果、建築費用は当初の予定から億単位でかさむことになりました。
「ゼロカーボンシティは市の方針とはいえ、財源の確保が大きな課題になりました」
そう話すのは、同じく子ども未来課で保育園・幼稚園担当の石井美穂さん。新園の建設を当初から担当してきた石井さんは、「担当者として、座って事務をやっているだけでいいのだろうか」といてもたってもいられなくなったと言います。そして、自ら費用を集めるための行動を始めました。
目標額を1000万円として、寄付の募集を2023年に開始。石井さんは市内の企業に電話をかけたり訪問したりして、個人と法人の77件から約540万円を集めました。それでもまだ目標に届かないため、ふるさと納税の仕組みを使って応援を呼びかけています。
通常、公立保育園の建築費は市税などを財源とする一般会計予算からまかなわれます。石井さんが企業に電話をかけると「市役所の職員がなぜ企業に営業をしているのか」と何度も驚かれましたが、熱意を伝え続けたといいます。
「保育園はこどもが1日のうち長い時間を過ごす場所です。木の温もりが感じられる床や壁、秘密基地のような遊具など、こどもが安心したりワクワクドキドキしたりする空間にしたいです。ZEB化によって環境に優しいだけでなく、こども、保護者、保育士にも優しい施設を目指したいんです」
未来への投資
新園建設にあたり、保護者、保育士、地域に住む人たち約20人が意見を出し合う検討会を6回にわたって開いてきました。
「雨の日にこどもが濡れないよう駐車場まで屋根をつけてほしい」「地域の人たちとこどもが交流できるよう地域交流室を設けるのはどうか」など、検討会メンバーたちの細かい意見も設計に取り入れました。
「検討会の最終回の記念撮影では、みんなとびきりの笑顔でした。市役所でもさまざまな部署が一体となってこの事業を進めています。環境も保育もすぐに効果が見えるものではありませんが、未来への投資として妥協せずに進めていきたいです」(石井さん)
2025年4月に開園予定の新しい保育園。多くの大人たちの思いを象徴するような大型遊具を園庭に設置できるよう、引き続き寄付を募っています。