昭和生まれが懐かしすぎて泣く。ファミコンの絵も描ける文房具
もうすぐ夏休みが終わります。大人も子どももちょっと寂しくなってしまうこの時期、東京・神保町の老舗画材店「文房堂」で、ノスタルジーを感じる文房具を見つけました。絵日記で描いた海の色や、駄菓子屋で食べたアイスの甘さがよみがえるようなカラフルな文具たち。ほら、どこからか「少年時代」が聞こえてきそう......
文房堂は、1887(明治20)年に東京都千代田区神田神保町で創業した画材店。日本で初めて専門家用の油絵具を開発・発売した老舗なだけあり、ザ・学校指定の文房具だけでなく、遊び心あふれる文具や画材が豊富にそろっています。
副店長の鍋田明子さんが、学用品として使えるだけでなく、夏休みの思い出にもなるような文房具を教えてくれました。
引き出しの隅っこに
鍋田さん自身、子どもの頃から文房具が好きで、学校の前にあった文具屋さんによく立ち寄っていたそう。
「文房具って、お小遣いをためて買ったものや友達からもらったものや、大人から買い与えられたものが、ずっと机の引き出しの隅っこにあったりしますよね。『これは小学校に入る前にあのデパートで買ってもらったな』と当時を鮮明に思い出すこともあります」
「特にこれは、世代を問わず知っている人が多いのでは?」と鍋田さんが見せてくれたのが、ミドリの「ミニクリーナー」です。
1998年に発売された、机の上の消しゴムのカスを掃除するクルマ型の「ミニクリーナー」。パステルカラーやスケルトンなど、その時代の人気色を採用しつつも形やサイズ、仕組みは変えておらず、今なお人気のロングセラー商品です。
「私は学生の頃、パステルピンクのものを持っていました。クリーナーといってもごっそり取れるわけではなく、もっと効率的に掃除できる商品もあるのですが、小さなブラシが消しカスを掃く動きがかわいくて目が離せないんですよね」(鍋田さん)
タイムスリップする文房具
コロコロと押してみると、子ども時代にタイムスリップしたような懐かしい感覚に。文房堂には、子どもの頃に通い詰めた駄菓子屋を思わせるようなコーナーもあります。
よく見ると、本当にお菓子が並んでいる......?
「パイの実」「きのこの山」「たけのこの里」「アポロ」「pino」......
大好きなお菓子ばかりですが、実はすべてメモ帳。funbox(旧社名:サカモト)の「お菓子の箱メモ」は実在のお菓子パッケージのデザインで、開け方もお菓子そのものです。
学生さんのほか、幅広い年代のお客さんがこのコーナーで足を止めて顔をほころばせるそう。気になる例の論争について聞いてみると、
「『きのこの山』と『たけのこの里」、文房堂でどちらが多く売れているかは、ご想像にお任せします。私は、チョコレートが多い『たけのこの里』派です」(鍋田さん)
ところで、駄菓子屋さん感を醸し出しているくじ引きのようなものも気になります。
これは、あの伝説の消しゴム「まとまるくん」のヒノデワシが、くじ引き仕掛けでつくったシリーズ「シークレットまとまるくん」。
シリーズ20作目の「はらぺこフレーバー20」は駄菓子屋さんフレーバーとして、「ラムネ」「梅ジャム」「カレーあられ」「スナック菓子」「風船ガム」の香りのほか、シークレットが1種類。箱の中から何が出るかはお楽しみです。
ニッチな香りのチョイスにメーカーの並々ならぬこだわりを感じますが、消しカスがまとまるところやよく消えるところは従来品と同じです。
消しゴムといえば、おなじみの「サクラクレパス」も負けていません。
見た目はクレパスですが、実は消しゴム。「わすれなぐさいろ」「うすべにいろ」などきれいな発色の12色あり、好きな色を選べます。
「色や香りがついた消しゴムはかわいくても消しにくいイメージがありますが、最近は機能性も高いものが登場しています。特にスティック型のクレパス消しゴムは、細かいところまで消しやすいです」(鍋田さん)
5K時代のドット絵
懐かしさと新しさが同居した文房具の数々。特に昭和生まれのファミコン世代にたまらないのが、サンスター文具の四角マーカー「dot é pen(ドット・エ・ペン)」です。
ペンの両端が四角マーカーと細字ペンになっていて、四角マーカーをスタンプのように押すことで、簡単にドット絵を描くことができるのです。鍋田さんによると、丸いドットを描けるペンはいくつかあるものの、これは四角のドットが描けるのが特徴だそう。
昭和のファミコンゲームは粗いドットで構成されていましたが、さまざまなものが5K解像度まで進んだ今だからこそなのか、ドット絵(ピクセルアート)の人気が再燃しています。
「『マインクラフト』などの影響で逆に新しさを感じさせるほか、少ないピクセルや色でどんな表現に挑戦できるかというクリエイティブな要素が人気の理由のようです」(鍋田さん)
「キャラ文具NG」の残念さ
イラストがついている鉛筆、香りつきの消しゴム、シャープペンシル、箱型ではない筆箱など、学校によっては「持ってきてはいけないもの」とされている文房具は少なくありません。
鍋田さんは「禁止するには理由があるはずでしょうから」としながらも、「文房具からその子の好きなものがわかり、友達づくりにつながることもあります。自分を表現するツールのひとつなのに、とちょっと残念にも思います」と話します。
子どもの頃に憧れていたのに手に入らなかった文房具も、大人になった今は自由に選ぶことができます。「どうせすぐ壊れるから」「太くて書きづらいから」と買ってもらえなかったルーレット式の多色ペンも、今なら大人買いできます。
pencoの「8 Color Crayon」は多色ペンのクレヨン版で、これ1本と紙さえあれば、どこでも絵を描けるというもの。
カチカチカチとダイヤルを回して使いたい色を出す瞬間は、大人になってもやっぱりワクワクしてしまいます。
宝物であり続ける
「文房具は、標準的な使い方をすれば長く使うことができ、大人になってからも変わらずに愛用し続けることができます」と、鍋田さんは話します。
「鉛筆や消しゴムは完全になくなるまで使うことは難しいので、私は『最後を見てみたい』という気持ちがあって、ちびて使えなくなってもなんとなく捨てられずにいます。愛着やストーリーが詰まっているから、数十年前の文房具でも宝物であり続けるのでしょう」
例えば、入学のお祝いなどで祖父母や親戚から贈られることがある、万年筆や色鉛筆。引き出しの隅に箱のまま眠っていないでしょうか。
「中学生のときに叔父が色鉛筆をくれたのですが、大人になってから画材屋で同じものを見つけて、有名ブランドのものだったのだとわかったことがありました。高価なものだったのに当時は価値がわからなかったんですね」
「時間が経つと再び価値が生まれたり、親から子どもへと受け継いで長く使えたりするのも、文房具のおもしろさだと思います」
クレヨンの意外な使い方
STOCKMARの「みつろうスティッククレヨン」は、もともと養蜂業を営んでいたシュトックマーが開発した天然素材のクレヨンで、ドイツの厳しい食品安全基準のもと、誤って口に入れても害がないようにつくられています。
子どもに握りやすいブロックタイプがあり、重ね塗りすることで中間色を生み出すこともできるそう。やや高価ですが、子どもの成長を願う贈りものにぴったりです。
しかも、みつろうクレヨンにはこんな意外な使い方もあるそうです。
「布地にみつろうクレヨンで好きな絵を描き、あて布をしてアイロンをあてるとロウが定着し、オリジナルのバッグやハンカチをつくることができますよ」(鍋田さん)
価値を再発見することができる文房具。大人になった今こそ、探しに出かけてみたくなります。