回転寿司を食べたことがない子どもに、選ぶ自由を。共感が広がる

小林明子

子どもたちが好きなときに好きなメニューを食べに行けるように。地域の飲食店と提携する「ドコデモこども食堂」のクラウドファンディングが進行中です。子ども自身が選べることにこだわっている理由は。発起人に聞きました。

ドコデモこども食堂」は、食事や見守りを必要とする家庭の子どもにクーポンチケットを配り、いつでも好きなときに地域の飲食店で食事ができるようにする取り組みです。クラウドファンディングの目標金額は3000万円。支援が広がり、2022年12月13日時点で2600万円超が集まっています。

発起人は、一般社団法人「明日へのチカラ」代表理事の岩朝しのぶさん。奈良県生駒市で里親として暮らしつつ、里親を支援するNPO法人「日本こども支援協会」を12年間、運営してきました。

社会的養護啓発プログラム「こどもギフト」とも連携しており、2022年12月12日にはタレントの犬山紙子さん、ファンタジスタさくらださんが岩朝さんとともにYouTubeで支援を呼びかけました。

ジャーのご飯しか知らない子

岩朝さんは生まれつき身体が弱く、小学4年生まで小児病棟で暮らしていました。

「16回も手術をしましたが、周りには亡くなっていく子もいました。小児病棟の中しか知らなかったので、それが当たり前だと思っていました」

「短い命を一生懸命に生きる子どもたちに大人が寄り添い、小児病棟は愛にあふれていました。医師も看護師も親も優しくてずっと足をなでてくれたりして、術後に麻酔から覚めたときに大人の顔をみて安心することができたんです」

「ドコデモこども食堂」の支援を呼びかける岩朝しのぶさん
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

一方、大人になってから岩朝さんが出会ったのは、愛情を受けたことがない子どもたちでした。

初めて里親として預かった5歳の子に「何が食べたい?」と聞いても、何も答えません。ハンバーグ、カレーライス、唐揚げ、餃子、ラーメン....子どもが好きなメニューはたくさんあるはずなのに、なぜ?この子は何を食べてきたんだろう。その子は得意げにこう話しました。

「お母さんが炊飯ジャーをまるごと渡してくれて、好きなだけ食べられるんだよ」

岩朝さんは「ぐぁんと頭を打たれたようになった」と言います。

「その子はジャーから直接食べるご飯以外の食べ物を知らなかったんです。自宅から出してもらえず、お腹がすいたら好きなだけ食べて、眠くなったら寝る。食べ物は与えられているので身体は大きくなるけれど、大事なものが育っていない。それ以外のメニューがあることも知らずに生きてきたんです」

岩朝さんは2010年に日本こども支援協会を立ち上げ、里親の支援や里親制度の啓発の活動を続けながらも、「里親が必要とされない社会にしたい」というジレンマがありました。

「傷ついた子どもを預かるのではなく、子どもが傷つかないようにしたい。親子が離れて暮らさなくてもいいように、親子のことを地域で見守るしくみをつくりたい」

出典:READY FOR「ドコデモこども食堂」プロジェクトサイト(2022年12月13日時点)

 食べたいものを選べる

「ドコデモこども食堂」の構想が生まれたのは2年ほど前でした。コロナ禍で、各地の「こども食堂」は感染拡大予防のために休止したり、仕方なく弁当を配ったりしていました。営業時間の短縮などで地域の飲食店も厳しい状況に置かれていました。

そこで考えたのが、地域のこども・支援者・飲食店をつなぐプラットフォームの形です。

チケットを必要とする家庭と、提携する飲食店を、地域のこども支援団体がつなぎます。チケットは、一世帯につき毎月3000円分。スマートフォンのアプリかカードのチケットを持って提携する飲食店に行くと、好きなメニューを選んで食事をすることができます。その食事代を「明日へのチカラ」が負担するしくみです。

地域にもともとある飲食店に金銭的な負担をかけることなく、見守りが必要な子どもや家族と継続的につながってもらうのがねらいです。

出典:READY FOR「ドコデモこども食堂」プロジェクトサイト

どの家庭にチケットを配るか、どの飲食店と連携するかは、それぞれの地域にあるこども支援団体が裁量をもって進められる点も特徴です。「見守りが必要な子どもたちのことを一番よく知っているのは、地域で活動している団体ですから」と岩朝さんは話します。

「行政が主体であれば公平な支援が求められますが、民間で連携するので不公平でもいいんです。ひとり親であってもそうでなくても、非課税世帯かどうかも関係なく、目の前にいる困っている子どもを支援することができます」

ふだん居場所支援や学習支援をしている団体がチケットを利用して食事も提供するなど、団体の特色を生かして活用することもできるといいいます。

目標3000万円の理由

元ロート製薬役員の山田安廣さんらの支援を受けていますが、アプリなどのシステム開発の初期費用の一部と食事チケット代の費用をクラウドファンディングで募っています。

オールオアナッシング方式のため、12月28日までに目標金額の3000万円が集まらなかった場合には、プロジェクトはゼロに戻ることになります。

「地域で人に関わってもらわないとしくみはつくれません。クラウドファンディングは、このしくみを必要だと思う人がこれだけいる、と可視化することでもあるのです」

回転寿司は子どもの憧れ

まずは2023年2月に、大阪市西淀川区でテスト運用を実施。その後はマンスリーサポーター、企業からの協賛、ふるさと納税などの活用などで継続的に資金を集め、各地に拡大していく予定です。

全国に展開するカレー、牛丼、回転寿司などのチェーンには、「明日へのチカラ」から協力を呼びかけていきます。

「特に回転寿司は、子どもたちの憧れですから」と岩朝さん。子ども自身に選択の自由があることが大事だと改めて強調します。

「外食の経験がない子どもや、食べたいものを食べていいと言われた経験がない子どもたちに、自分が行きたいときに食べたいものを食べられるという主体性をもつ経験をしてほしいのです」

犬山紙子さんとファンタジスタさくらださんも、支援を呼びかけています。

「外に出てご飯を食べることは、社会との大切な接点となりえます。子どもがお腹いっぱいになるだけでなく、選択の自由を得られるというのはとても大きな意義があるはずです」(犬山さん)

「これまでの活動を通して、地域との連携の大切さを実感しています。子どもと地域がつながるしくみが、全国で当たり前になってほしいです」(さくらださん)


著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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