女性もはけるボクサーブリーフをつくった理由「性別関係なく、ノイズを感じない下着を」

白鳥菜都

数年はいた後のような柔らかな質感に、シンプルなデザイン。one novaの下着はそんな特徴を持っている。2022年夏に大きくリニューアルした同ブランドからは、ビキニタイプのショーツやブラ、そしてユニセックスタイプのボクサーパンツが発売された。どんな人にとっても、気持ちよく身に付けられる商品づくりの裏にある思いとは?

「ボクサーパンツをはいてみたい。けれど、どうもしっくりくるものがない」

以前からうっすらとそんなことを考えていた。レディースの下着売り場に行っても、細かい装飾のついたランジェリーか、機能性に振り切ったのっぺりとしたパンツばかり。ボクサーパンツは、女性用のショーツよりも締め付けが少なそうなのと、カジュアルなのに豊富でおしゃれなデザインが良いなと思っていた。しかし、たまに見つけたと思ったボクサーパンツは、お尻の大きな私には浅くてはきにくい。

そんな中、SNSで目に止まったのが「one nova」という下着ブランドだった。ブラやビキニタイプの下着、ユニセックスタイプのボクサーブリーフも販売されている。

「ノイズレスな『気持ち良さ』を追求したアンダーウェア」を謳うone nova。女性にとって、またその他のジェンダーの方にとっても「気持ち良い」下着とはどんなものなのだろうか。ファウンダーの1人、金丸百合花さんにone novaのブランドづくりの背景を聞いてみた。

金丸百合花(かねまる・りりあん) / 株式会社ONE NOVA 代表・ブランドディレクター。
1999年生まれ。在学中にアンダーウェアブランドone novaを設立。自然由来素材の高機能アンダーウェアを展開し、Forbes 30 under 30 Asia に選出。現在は“人生のどの瞬間も、一番近くから気持ちよさを届ける"ことを目標に、ブランドの運営を手掛ける。
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

本当に良い下着って何だろう?

「大学生が立ち上げたエシカルなアンダーウェアブランド」として、注目を集めていたone nova。2020年に一度ブランドを休止したのち、2021年から再開し、1年が経過した2022年夏に大きくリニューアルした。背景には、顧客との密接なコミュニケーションがあったという。

「ブランドを再開して1年間、お客様とコミュニケーションを取る機会が増えて、今まで私たちが作ろうとしていたブランドのイメージと実際のお客様との間に乖離があることがわかったんです」

onenova創業時
ブランド創業当初の様子
株式会社ONE NOVA提供

「例えば、以前のパッケージは若々しい印象で、素材にオーガニックコットンを使用し、サステナブルな雰囲気を押し出していました。でも、実際に商品を手に取ってくれるのは、30代後半〜50代の方が多くて。お客様一人ひとりの話を聞いてみるとビジュアルやサステナビリティよりも、はき心地に着目してリピートしてくださっている方が多かったり、もっと多様な理由があることがわかりました」

one novaは数字だけでみた傾向ではなく、n=1の声に着目した。それぞれの人がどんな消費の仕方をし、どんな生活の中でone novaを活用しているのかのイメージが具体的になったことで、リブランディングを図った。

「私たちの下着を身につける人にとって本当に良いものって、『汗をしっかり吸収してくれる』とか『着心地がいい』とか『無駄のないデザイン』なんじゃないかなと考えるようになりました。下着としての機能をちゃんと果たさなければ意味がないと改めて気付かされて、素材にメリノウール(羊毛)とモダール(樹木)を採用することにしました」

リブランディング後のパッケージ
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

"女性向け"下着のジレンマ

素材の変更に加えて、リブランディングの大きな要素となったのが、商品ラインナップの拡充だ。

one novaはもともとはメンズ向けの「Worry Free 3D Boxer Brief」のみを販売していたが、ブランドリニューアルに伴ってブラとビキニタイプのショーツを発売した。これも、大きなきっかけは顧客からの声だったという。

「『Worry Free 3D Boxer Brief』しかなかった頃から、女性のお客様がプレゼント用に商品を買ってくださることがよくありました。そんな中で『プレゼントしたらすごく喜んでくれたので、私もはいてみたい』『触ってみたらすごく気持ちよくて、レディースもつくってほしい』といった声が寄せられることも増えてきて」

「私自身も女性の体で、3Dボクサーをはくことはできるけれど、体にフィットしないので男性に比べて半分以下の感動しかないんだろうなと思っていました。なので、リブランディングを機にラインナップを増やすことにしました」

リブランディング後の商品
株式会社ONE NOVA 提供

一般的な女性向け下着は、レースやリボンなどの装飾がついたランジェリーか、縫い目のないテロンとした機能性重視の下着に二極化してきている。それぞれの良さはあるものの、それだけでは満たせない価値がある。

金丸さん自身も、one novaの下着を身につけ始め、今まで気が付かなかった女性向け下着の課題に改めて気付いたという。

「いわゆるランジェリーっぽい下着は、ゴージャスな印象があって、身につけることで高揚感をもたらしてくれて素敵ですよね。一方で、機能に特化しているものもあって、それが生活に合っている人もいる。でも、どちらかだけだと『そうじゃない感』を感じている人もいるんじゃないかなと思っています。そんな人の『あったらいいな』に目を向けたいなと思っています」

パンフレットでも、顧客の細かなニーズを拾った特徴が紹介されている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

「私はこれまで装飾のある下着も身につけていました。でも、one novaの下着を身につけてから、『今までの下着は腕を上げただけでブラが上がってきちゃっていたな』とか些細だけれどノイズを感じながら下着を身につけていたんだと気づきました。こういった課題感に着目しながら改善を重ねていきたいと思っています」

「ジャストサイズ」の基準は人それぞれ

one novaではブラやビキニショーツに加え、ユニセックスタイプのボクサーブリーフも登場している。まさに筆者が欲しいと思っていたジェンダーを限定せずにはけるボクサーブリーフだ。筆者同様に、女性からの「ボクサーブリーフをはきたい」という声もあり、作られたという。元々発売されていた3Dボクサーとの違いはフロント部分の膨らみがないことだけだ。

ボクサーブリーフ
ユニセックスタイプのボクサーブリーフ着用イメージ 
株式会社ONE NOVA 提供

いざ商品を発売してみると、「トランスジェンダー向けの商品」だと捉えられることも多かったというが、必ずしもそれだけではないと金丸さんは語る。

「実は、私たちの商品は、『MALE』『FEMALE』『UNISEX』という表記をしているんです。これは、ジェンダーではなくて身体的な特徴に沿って商品を分けているにすぎないということです」

「もちろん、『UNISEX』の商品が増えることで、今まで選択肢がなかったという人に選択肢ができたのであれば、それは喜ばしいことですよ。でも、本来はひとりひとり体の特徴が異なるのだから、それぞれの体の特徴に合わせて最適解を追求すべきだと思っています」

「なので、ユニセックスのボクサーブリーフはトランスジェンダーの方向けとか、女性向けということではなくて、男性で体にフィットする方がはいてももちろんいいと思っています。実際に、前からone novaを使ってくださっているお客様で、ユニセックスのボクサーブリーフのほうが合っていたという方もいます」

ユニセックスのボクサーブリーフ(左)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ユニセックス商品というと、体のラインが出にくいデザインなど最大公約数を求めた商品も多い中、下着という身体に最も近いところにある商品を扱うからこそ浮かび上がってきた視点だろう。

3Dボクサーが合うと感じる女性もいるかもしれないし、ビキニタイプのショーツがフィットする男性もいるかもしれない。「ブランド側が楽しみ方を制限せずに、より豊かな選択肢を提示したい」と金丸さんは語る。

「ユニセックスをつくるのが大事だ、というよりはレディース商品やサイズ展開の豊富さも含め、選択肢を増やしていくことが大事なんだと思います」

「身体の特徴以外にも、感覚的にも人によって『ジャストサイズ』は異なります。身体にぴったりしたものが合う人もいれば、ゆるっとしたもののほうが合う人もいる。ブランドが言う『ジャストサイズ』って目安でしかないなとも思います。なので、お客様自身が本当に自分にとって『気持ち良い』ものに辿り着くのを邪魔しないようにしたいと考えています」

存在感のなさが気持ち良い

ブランドのウェブサイトを覗いてみると「『気持ち良さ』すら忘れてしまうノイズレスな着心地」というコピーが目に入ってくる。では改めて、one novaにとっての『気持ち良さ』とはどんなものを指すのだろうか。

「やっぱり自分の体に一番近い部分でほぼ毎日身につけるものなので、ストレスなく身につけられるといいなと思っていて。その人がその人のままでいいパフォーマンスを発揮できる、伸びやかにいられる『気持ちよさ』が大事なんじゃないかなと思いました。だから、私たちとしてはできる限り商品としての存在感と曇りを無くすことが一番『気持ちよさ』につながると思っています」

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

商品としての存在感を無くす。せっかくつくった商品なのに、つくり手からそんな言葉が出てきたのは、意外だった。具体的にはこんな取り組みをしているという。

「もちろん第一に着心地の部分は大事です。なので、違和感を感じたまま着なくて良いように試着後も返品交換できるようにしています。それ以外にも心理的な部分では、自分の倫理観に反することをしているブランドの商品や環境負荷の高い商品は、身につけていて嫌なノイズになると思うので、そういうことはしません。私たち自身も作るのが嫌ですしね」

「購入体験についても、自分が選べるものがないというモヤモヤを減らしたいので商品ラインナップを増やしました。いろんな面で、お客様が『普段の自分』のままいられるように、できる限りのことはしたいなと思っています」

2018年のスタート時から改善を重ねてきたone novaはこれからどんな方向に向かっていくのだろうか。最後に、今後の展開について聞いてみた。

「私も、共同創業者の高山泰歌も、『生きるという活動』に近いものに関心があるんです。例えば下着もそうですし、睡眠に関連するグッズとかもそうです。もちろん嗜好品も大好きですよ。下着や睡眠グッズなどは、人生の中で接している時間が長くて、自分を下支えしてくれるようなものだから、大切にしたい気持ちが強いんです。なので、今後も生活のベースにある課題を解決するアイテムをつくっていきたいなと思っています」

人によって最適解は異なるという当たり前のことに、改めて気付かされた。つくり手側からおすすめを提示することはいくらでもできるし、限られたリソースの中で商品ラインナップをどんどんと増やしていくわけにはいかない。

そんな中でも、真剣に顧客に向き合っていく姿勢こそが、多くの人にとって『気持ち良い』と感じられるブランドづくりにつながっていくのだろう。


3月8日は国際女性デー。

国際女性デーは、世界中で女性の権利について考える日。OTEMOTOでも、さまざまな立場で活躍、奮闘している女性の声を聞いてきました。多様な生き方を選ぶ女性たちを勇気づける言葉や、自分と向き合うヒントが詰まっている記事をお届けします。

3月8日国際女性デー
OTEMOTO
著者
白鳥菜都
ライター・編集者。2018年頃よりウェブメディア編集部に所属し、執筆活動を開始。大学卒業後、会社員として働く傍らで、フリーランスのライター・編集者として活動を継続。ジェンダーや人種に関する社会課題や、文学やアートなどのカルチャーを中心になど取材。
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