カミングアウト、する場合、される場合。意識調査でわかったそれぞれの本音

難波寛彦

性的マイノリティであることを打ち明ける「カミングアウト」。LGBTQ+の当事者にとって、その選択は人生に影響を与えることもある重大な決断です。電通グループが発表した意識調査『LGBTQ+調査2023』では、当事者が感じている抵抗や抱える悩み、そして、少しでも力になりたいと考える非当事者たちの声が紹介されています。

LGBTQ+の当事者が、自身が性的マイノリティであると周囲に打ち明けることを指す「カミングアウト」。電通グループが発表した『LGBTQ+調査2023』では、当事者・非当事者たちのカミングアウトに対するそれぞれの考え方にも多様性があることがわかりました。

この調査は、性自認や性的指向にかかわらず誰もが生きやすい社会づくりに向け、LGBTQ+(レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)、クィア・クエスチョニング(Q)、その他多様なセクシュアリティ(+))をめぐる現状の把握・課題発見を目的としたもの。

5回目となる今回は、2023年6月に全国20~59歳の5万7500人を対象にしたスクリーニング調査で、全回答者に占めるLGBTQ+当事者層の割合は9.7%となりました。

ただ「匿名のアンケートであっても性自認や性的指向を表明することが難しい回答者もいる」としており、追加で定性的な意識調査も実施。LGBTQ+当事者(該当者600人)とLGBTQ+非当事者層(層該当者5,640人)の声を紹介しています。

Adobe Stock / Davide Angelini

「嘘」を語らなければいけない

カミングアウトに関する当事者への質問では、「カミングアウトできていない職場や学校などでは、うまく意見を言えなかったり、自分を出せないことがある」と回答した当事者は36.1%、「職場や学校の仲間にはカミングアウトしなければというプレッシャーを感じる」と回答した当事者は16.1%という結果に。

「プライベートな話を”嘘”で語らなければいけない」「自分だけ周りの人と向き合えていないような気持ちになる」といった声もあり、性的マイノリティであることを周りに打ち明けられていない状態は大きな心理的負担があることが見てとれます。

ただ、当事者の半数近くがカミングアウトに大きな抵抗を感じていることもわかりました。

「カミングアウトすることで職場や学校などで居づらくなると思う」と回答した当事者は48.6%、「カミングアウトすることで友人や知人が重荷に感じるのではないかと思う」と回答した当事者は43.3%。

「カミングアウトしないことで辛いことも多いが、カミングアウトすることで悪い方向に関係性が変わってしまうかもしれないという怖さを感じてしまう」

「同性が恋愛対象なので同性で仲の良い友人ほど伝えにくい」

といった声がありました。

一方、「LGBTQ+非当事者層」にあたる人たちへの質問では、カミングアウトを肯定的に受け止める声が多数を占めました。

「カミングアウトされたときはありのまま受け入れたいと思う」と回答した非当事者は84.6%、「友人や知人からカミングアウトしてもらえることは信頼されていると感じて嬉しい」と回答した非当事者は77.7%に。

「もし困っていることがあるなら教えてほしいし力になりたい」「誰にでも話せることではないので信頼してくれていると感じる」などの声があり、当事者からカミングアウトされた際には積極的に受け入れたいと考える人も多くいることがわかりました。

さらに、「カミングアウトするかどうかは本人の意思が尊重されるべき」と回答した非当事者は87.6%。「職場や学校などにいる性的マイノリティの仲間にも自分らしくいてほしい」と非当事者の84.5%が回答しました。

「無理をせず素直な気持ちでいられるように関わっていきたい」「周りがとやかく言うことではないし、対応できない環境が変わるべき」など、ポジティブに捉えつつも、あくまで当事者の選択を尊重したいという声が多く見られました。

LGBTQ+の当事者にとって、その後の人生に大きな影響を及ぼすこともあるカミングアウト。それだけに、当事者自身の考え方や捉え方もさまざまです。電通グループは意識調査の目的を「LGBTQ+の当事者と非当事者がお互いをよりよく理解し合うためのもの」としています。

著者
難波寛彦
大学卒業後、新卒で外資系アパレル企業に入社。2016年に入社した編集プロダクションで、ファッション誌のウェブ版の編集に携わる。2018年ハースト・デジタル・ジャパン入社。Harper's BAZAAR Japan digital編集部在籍時には、アート・カルチャー、ダイバーシティ、サステナビリティに関する企画などを担当。2023年7月ハリズリー入社。最近の関心ごとは、学校教育、地方創生。
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