理工系学部の「女子枠」入試が急増、"逆差別"と反発を受けても続ける大学の実態とは
東京工業大学、東京理科大学、名古屋大学など、理工学系の大学や学部の入試で、新たに「女子枠」を設ける動きが急速に広がっています。どんな背景があるのか、「逆差別」という批判にどう対応しているのか。国際女性デーを前に、各大学に実態を聞いた調査結果が発表されました。
2023年度の文部科学省の学校基本調査によると、学部生の女子学生比率は、理学部で27.9%、工学部で16.1%。女子学生が増えているとはいえ、学問の場の多様性という観点では課題が残ります。
このため、大学入試で女子だけが出願できる「女子枠」を設ける動きが広がっています。
STEM分野(自然科学・数学・統計 / 機械・工学・建築など)を学ぶ女性を支援している公益財団法人山田進太郎D&I財団が2024年3月7日、理工学系の大学や学部の「女子枠」の実態調査を発表しました。
同財団は2021年7月、メルカリ創業者でCEOの山田進太郎さんが設立。理系進学を志望する女子高校生に抽選で、給付型の奨学助成金を支給しています。
きっかけは、山田さんがメルカリで多様なサービスを提供するために職場のダイバーシティ&インクルージョンを進めようとしたところ、女性エンジニアを登用することが難しかったという経験でした。大学進学や文理選択の段階にさかのぼってジェンダーギャップを解消するために、私財30億円以上を投じて財団を設立したといいます。
「奨学金の応募者からは、『理系の進学を親に反対された』『先生に文系を勧められた』などの声がありました。女子が少ないとわかっている環境や、トイレなどハード面の課題など、興味はあっても躊躇してしまう要因がまだまだたくさん残っています。性別に関わらずすべての人が好きなことを目指せるよう、後押ししていきたいです」(同財団広報の大洲早生李さん)
財団は2035年までに、STEM分野の大学入学者の女性比率をOECD平均並みの28%にすることを目指しています。
このたび、女子の入学者を増やすために「女子枠」を設けた理工系の学部がある40大学を対象に2024年1〜2月に調査を実施。24大学から回答を得ました。
女子枠は2023年度に急増
入試に女子枠を導入した時期は、芝浦工業大学(2018年度)など3大学が、2020年度入試以前から。2023年度入試からが4大学、2024年度入試からが16大学と、ここ2年間で急増したことがわかりました。
2024年度から導入した金沢大学の理工学域によると、女子比率20%を目標に、定員34名の女子枠を設置。女子に特化したオープンキャンパスを実施しました。
募集定員を下回った大学も
女子枠を導入した理由を聞くと、企業や産業界から女性技術者に対する需要が増えていることや、学生や教員の多様性を高めて教育・研究環境の質を向上させることがあげられました。
女子枠を導入する際に最も期待していた効果は、「学部の多様性と活性化」(21校)、「優秀な女子学生の獲得」(20校)、「学部のジェンダーバランスの促進」(19校)が多くあげられました。
2024年度の女子枠入試の応募状況は、定員を上回る応募または同数程度が12校でした。定員を下回った7校は2024年度からの導入で、周知不足が一因とみられています。
周知の方法としては、ほとんどの大学が公式ウェブサイトに掲載したり、オープンキャンパスや説明会で知らせたりしています。「個別に高校にアプローチしたり、現役の女子学生が母校を訪れて説明したりしたことが功を奏した大学もあります」(大洲さん)
女子枠を導入した結果、対象の学部でどのくらい女子が増えたかという質問では、2023年度までに導入した4大学が、女子学生比率が10〜30%増えたと回答しました。
「逆差別」との批判
調査発表の記者会見に登壇した旭化成社外取締役の前田裕子さんは、「理工系を学ぶ女性が増えない限り、製造業などで働く女性も増えづらい」と指摘します。
「女性にも多様性があるにも関わらず、職場でパイが少ないと『やっぱり女子だから』と性別でレッテルを貼られ続けます。まずは女性を増やすために、枠を決めることが重要です」
一方、女子枠をめぐる議論ではたびたび「逆差別」「不平等」といった批判がみられます。調査では、学内外から否定的なコメントを受けたという大学は約半数の10校にのぼりました。
2018年に明らかになった東京医科大学が入試で女子や浪人生に不利な採点をした問題では、性別を理由にした不適切な扱いだとして東京高裁が元受験生の女性16人に損害賠償を命じています。
女子枠を継続する
文部科学省高等教育局大学教育・入試課大学入試室長の平野博紀さんは、女子枠の入試については「合理的な理由を説明できること」と「選抜区分を分けること」が重要だと話します。
「男性が9割いるところに男性を増やすというのは合理的ではありません。女性の入学者が過少であるとする理由や背景を分析して、合理的に説明する必要があります。また、入学後にどういう能力を発揮してほしいかを明確にして、現行の選抜方法や評価尺度との違いを持たせる必要があります」
実際、多くの大学で女子枠は、総合型選抜や学校推薦型選抜に準じる選抜方法で実施されています。
調査に回答した24大学すべてが今後について、「来年以降も女子枠を継続する」と回答しています。