「プリント地獄」から「アプリ迷子」に。学校DXで連絡アプリがスマホを占領?

小林明子

学校と保護者の連絡ツールが、従来のプリントからアプリに急転換しています。スマホ1台で管理でき便利になった一方、学童保育や塾なども含め複数のアプリに振り回されている家庭も。子どもに関する連絡やスケジュールの把握、どうしていますか?

連絡アプリの利用が急増

デジタル化で遅れをとっていた学校現場。学校と家庭の間の連絡は、プリントや連絡帳、電話などアナログな方法が長らく続いていました。ところが、コロナ禍で一気にデジタル化に舵を切る動きがありました。

文部科学省は2020年10月、学校と保護者の連絡手段をデジタル化するよう全国の教育委員会などに通知しました。これを受け、公立の学校や幼稚園・保育園の保護者への連絡ツールとしてメールやアプリを導入する自治体が急増しています。

日経MJによると、フラー株式会社が運営するアプリ市場分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」で学校などの教育機関と家庭をつなぐ連絡を主な機能とするアプリを分析したところ、主な10アプリの2022年6月の月間利用者数の合計は426万人。3年前に比べて2.3倍になったということです。

子どもとの時間が増え

東京都目黒区は2021年11月、区立すべての小中学校、幼稚園から家庭への連絡手段としてスマホのアプリを導入しました

目黒区教育委員会によると、アプリ導入後、業務の負担感が大きく軽減されたという教員の声が寄せられています。教育指導課長の寺尾千英さんはこう話します。

「プリントは印刷して配布する作業がありますが、アプリの場合は、同じ形式のPDFであっても印刷と配布の手間を省けます。送信日時を指定して計画的に配信することもできます」

「アプリ経由で欠席の連絡がくると教員が持ち歩いている端末ですぐに確認できるので、職員室で電話対応することなく、教室で子どもたちと接する時間が増えました」

連絡アプリの導入によって、大量のプリントをランドセルの底から探し出さなくて済むように
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

プリントとアプリの併用

目黒区では、すべての区立学校と幼稚園で保護者連絡システム「C4th Home & School」を導入しています。欠席連絡だけでなく、検温報告や連絡帳、アンケート、安否確認などさまざまな機能がありますが、どの機能を使用するかは各学校に任されています。

「現状は、アプリとプリントのハイブリッド型で運用している学校が多いようです」(寺尾さん)

いまだにプリントのニーズが高いものの筆頭は、給食の献立表です。冷蔵庫に貼っておきたい家庭が多いからだと思われます。また、運動会のときにグラウンドの見取り図をプリントで発行し、子どもが演技のときの自分の立ち位置に印をつけて保護者に渡すというコミュニケーションを大切にしている学校もあります。

「このほか、情報量が多くて端末では見づらい連絡もプリント配布を続けています」(寺尾さん)

重視する機能が異なる

目黒区の場合、学校連絡アプリの登録率は2022年7月時点で約95%。ほとんどの保護者がアプリをダウンロードしているとみられます。学校ICT課長の藤原康宏さんは「このうち約30%はサブアカウントも利用していることから、夫婦や祖父母らと共用しているようです」と話します。

2022年4月からは区立保育園や学童保育クラブ、児童館でも連絡システムを導入しましたが、学校や幼稚園とは別のアプリを利用しています。

目黒区では、区立学校や区立幼稚園は教育委員会、区立保育園は保育課、学童保育や児童館は子育て支援課が、それぞれ管轄しています。各施設の特性に合わせて最も重視したい機能が、連絡だったり入退室管理だったりと異なるという事情があったようです。

このため、子どもが複数人いて、保育園と小学校に通っていて学童保育も利用している家庭や、子どもを民間の塾や習い事にも通わせている場合は、複数の連絡アプリを使っている可能性があります。

学校や学童保育の連絡アプリはスマホのフォルダにまとめて管理しているけれど、うっかり通知を見逃すことも...
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

連絡アプリ5つとLINE

実際、保護者たちは連絡アプリとどのように付き合っているのでしょうか。

筆者がグループ社内の子育てコミュニティで、ふだん利用している連絡アプリの数を子どもの人数に関係なく聞いてみたところ、回答した27人のうち16人が、2つ以上の連絡アプリをダウンロードしていました。このうち「5つ以上」と答えたのは5人。連絡アプリをまったく使っていないという人はいませんでした。

「子ども2人が別々の保育園に通っており、一方は完全にアプリ連絡、もう一方はアプリとプリントのハイブリッド型。正直すべてアプリのほうが助かります。都合のよいタイミングで確認でき、未読の際にはプッシュ通知が残るので、見落としが少ない印象です。家族で共有できるのも便利です」(2児の父親)

プリントと比べて便利なアプリですが、戸惑う声も聞かれました。

「連絡アプリは5つ。他の習い事はLINEやメールで、プリントも毎日たくさん持ち帰ってきます。いつも情報迷子で、アプリの機能だけでは管理しきれず結局、自分のカレンダーに情報を入れ直しています」(2児の母親)

「高校生、中学生、小学生の子どもがいるので、アプリとプリントで常に混乱しています。プリントを画像にするアプリで子どもごとに保管したり、別のカレンダーアプリにスケジュールを移したりと工夫してみましたが、このデータが落ちたらと不安になることがあります」(3児の母親)

「4月に小学校に入学してから、アプリ、LINE、プリント、メールとあらゆるツールが飛び交ってずっと収拾がついていません。夫とGoogleカレンダーで共有して漏れがないように気をつけていますが、父母どちらか1名しか登録できないものもあり、頭を抱えています」(1児の母親)

もうプリントには戻れない

アプリだといつでも確認できるという安心感がゆえに連絡がたまってしまったり、プリントと比べて管理に慣れていなかったりといった事情もあるようです。また、複数のアプリを使っていたり、LINEやプリントなど連絡ツールが複数あったりするため、情報迷子になってしまうという声もありました。

とはいえ、アプリならではの課題が見えてきたのは、利便性のレベルが上がったからこそ。すべてプリントによる連絡だった頃を思い出せないほど、学校のDX(デジタルトランスフォーメーション)は急速に進んでいます。プリントからアプリへ、大きな一歩が動いたあとは、より使いやすい方向へとシフトしていくことに期待が高まります。

学校のこれから

私たちが経験した学校のよいところ、よくなかったところを、大人になったいまだからこそ声をあげ、これからの子どもたちがのびのびと成長できる場所づくりにつなげていけたらと思います。ぜひアンケートにご協力をお願いします。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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