ひたすら真面目に、派手さもない。日本のトマト畑から生まれた「実直」なカゴメトマトジュースの意外な背景
カゴメが新たに発売した、国産トマト100%ジュース「日本のトマト」。世界各国のトマトの味を知り尽くした開発者の構想が実を結んだトマトジュースです。開発の背景には、畑に何度も足を運んできたからこそ見えた、日本の農業へのある思いがありました。
カゴメの通信販売「健康直送便」限定で2024年11月11日に発売されたトマトジュースは、その名も「日本のトマト」。1933年に日本で初めてトマトジュースを製造・販売したカゴメには現在、トマトジュースのラインナップが6種類あり、7種類目として仲間入りしました。
日本でトマトジュースが誕生してからまもなく100年を迎えるタイミングでの新商品。しかし、開発をリードしたカゴメ飲料企画部の山口貴之さんは、「特に派手なストーリーがあるわけではないんです」と語ります。
むしろ、90年以上にわたり実直にトマトジュースと向き合ってきた技術や研究の集合知として、生まれるべくして生まれた商品だそう。開発にかけた思いと背景とは。山口さんに詳しく聞きました。
「日本のトマト」の開発に着手したのは、2023年の秋ごろでした。カゴメが日本で初めてトマトジュースを発売してからちょうど90年になる年でしたが、特に意識したわけではありません。
どちらかというと、「これからの世の中に必要な商品をつくりたい」とずっと温めてきた構想が、90年超にわたって積み上げてきた経験と知見によって、ようやく形にできたというほうが近いです。
「これからの世の中に必要なこと」とは、安全で安心な食材をいつでもおいしく食べられるということ。当たり前のようでいて、すでに当たり前ではなくなっている現実があるからです。
国産トマトが減っている
2023年度の日本の食料自給率は38%で、3年連続で横ばいの状態です。最近は猛暑や大雨などの異常気象を実感するようになったほか、米の価格が高騰して食卓を直撃する出来事もありました。
トマトも例外ではありません。
あまり知られていないのですが、トマトジュースの原料となる「加工用トマト」は、ビニールハウスや支柱を使わない露地栽培なんです。完熟を迎える夏に一斉に収穫するため、作業の負担が大きいうえ、つくり手が高齢化していることなどから、加工用トマトの国内生産量は減少傾向にあります。
日本で加工用トマトをつくる人が減ってしまうと、トマトジュースをつくることも難しくなります。
カゴメのトマトジュースの中で、国産トマトを100%使っているのは「夏しぼり」「北海道余市トマトジュース」「カゴメトマトジュースPREMIUM」の3種。いずれも、期間限定や数量限定での販売です。国産トマトジュースを通年で販売できるようにするには、国産の加工用トマトの生産量を増やしていく必要があるのです。
ジュースで課題を解決する
カゴメは創業時から、「畑は第一の工場」という理念のもと、「フィールドパーソン」と呼ぶ農業のプロである社員が契約農家の畑を巡回して栽培を指導し、加工用トマトの生産に二人三脚で取り組んできました。
さらに、リコピンが豊富で栽培に手間がかからない品種「凛々子」を開発したり、収穫機を貸与したりして、生産者の負担を減らす工夫を続けています。
私は2009年にカゴメに入社し、トマトの加工や飲料開発に携わったのち、飲料のマーケティングを担当しました。何度も畑に足を運び、生産者の方たちから農作業の大変さや後継者の問題などを聞いてきました。
私はフィールドパーソンではないので、農業のアドバイスを直接することはできませんが、得意分野である「おいしい飲料をつくって届ける仕事」を通して、農業の課題を解決できるのではないかと考えてきました。
手塩にかけて育てたトマトがおいしいジュースになり、お客さんに喜んでもらえたら、生産者の方たちの希望になり、トマトづくりの励みになるかもしれない。そんな価値のあるジュースを開発したいとずっと思いながら、一方で、「それは加工する側のエゴなのかもしれない」と踏み切れない面もあったんです。
そんなとき、ある契約農家さんから背中を押されました。
2023年11月、その年のトマトの収穫を労う懇親会でのことでした。栃木県のあるベテラン契約農家さんに声をかけられたんです。
「国産100%のトマトジュースを一年中、お店に置いてもらえないだろうか」
その農家さんは、加工用トマトを20年以上にわたって生産し、カゴメのトマトジュースを支えてきてくれたひとりです。そんな農家さんからの「国産100%」「一年中」という言葉には「日本のトマトの価値をちゃんと届けてほしい」という願いと期待が込められていると感じました。
農家さんの強い思いを受け取って、国産トマト100%のジュースをつくる決意が固まりました。
おいしいジュースを多くの人に届け、農家の方たちに仕事をつくり出していき、持続可能な農業の循環をつくる。「日本のトマト」は、そこまで見据えて開発した商品なんです。
飽きずに飲める味に
実のところ、今のカゴメの技術ならできるはずだという確信もありました。
加工用トマトは年に一回、夏に一斉に収穫しますが、完熟トマトの香りを生かしたまま濃縮するカゴメの特許技術「RO(逆浸透圧)濃縮技術」の向上などにより、トマトジュース原料として一年中、おいしく提供することができます。
期間限定商品の場合、収穫時期が遅い東北地方や北海道のトマトは間に合わないのですが、通年の商品があることで、それらも活用できるようになります。日本の農業にインパクトを与えるには一定の規模感が必要で、カゴメだからこそできることであり、すべきことだ、と社内でも一気にプロジェクトが動き出しました。
となると次のミッションは、なるべく多く飲んでもらえるトマトジュースをつくること。つまり、味や食感の調整です。実はこれが、とてつもなく難しいのです。
おいしいジュースをつくると一口に言っても、どんな原料からつくるか、どんなシーンで飲まれるかによって、おいしさの定義は異なります。今回は、国産トマトのおいしさを最大限に生かしつつ、健康直送便でお届けするからには毎日飽きずに飲んでもらえるように、後味のすっきり感を重視しました。
私は那須工場に勤務していたとき、工場に届く世界中のトマト原料を毎日検品していました。各国のトマトを試食したことで、味や香りの特徴が知識として蓄積されました。その味覚が、その後の飲料の商品開発に生きています。
同じ品種でも、産地の気候や風土によってトマトの味はまったく違います。海外産のものは甘くフルーティーなものが多い一方、日本のトマトは酸味があってさわやかな味わい。
今回は国産トマトだけが原料なので、「これが日本のトマトの味なんです!」と自信をもって言えるジュースにすることは、大きな挑戦でもありました。また、トマトは食物繊維が多いため、ジュースにしたときの食感がドロドロ、モコモコしてしまいがちなのも課題の一つでした。
そこで、私と同じように那須工場の勤務経験があり、トマト加工の全工程に精通する飲料食品開発部の山崎健雄を開発担当のリーダーに抜擢し、2人で数十回の試作を繰り返しました。
複数の野菜や果物をブレンドするジュースとは違い、トマトの素材の力だけでおいしさの到達点に近づけていくので、変数は少ないものの、精密な味覚や素材への理解が必要になります。トマトペーストと2種類のトマトピューレ、計3種類のそれぞれ完成された原料をさまざまな配合で混ぜ合わせ、バランスを調整していきました。
味を決めるときは、甘味や酸味を科学的に分析した数値と、開発者の感覚を両立させ、最終的には開発者の味覚が決め手となります。「これだ!」という地点まで突き詰めていく作業は、カメラでピントを一点に絞り込んでいくようで根気がいるものですが、「いつか絶対にたどり着けるはずだ」という自信はありました。
試作を繰り返して4カ月ほどたった頃でしょうか。濃厚さがありながら、フルーツのようなすっきりした風味が実現したときは、改めて日本のトマトを誇らしく感じました。
トマト本来の価値を
また、毎日飲み続けていただくために、機能性表示食品にすることにもこだわりました。
トマト由来のGABA(ギャバ)には、血圧が高めの人の血圧を下げる働きがあることが確認できています。また、トマト由来の食物繊維には、食後中性脂肪が高めの人の中性脂肪の上昇を抑える機能があることも新たに明らかになりました。
トマト以外の原料を使用していないのに機能性表示食品として開発できたのは、カゴメの「食健康研究所」による長年の研究の成果です。畑と生産者の力、開発の力、研究の力。すべての粋を極めた商品が「日本のトマト」なんです。
生産者の方にトマトをつくり続けてもらいたいという思いが開発の原点でしたが、そもそもお客さんに「おいしい」と感じてもらえないと、結局は思いだけになり、生産者の方たちの役に立つこともできません。
開発の途中で悩んだときは「この味をお客さんに届けて、自分たちがうれしいと感じられるかどうか」「飲み続けてもらえるように工夫できているか」と、胸に手を当てて自問自答を繰り返してきました。
おいしくて、飲みやすくて、毎日の健康のお守りになるようなジュースができました。でも、ここはスタートラインです。日本の農業を守っていけるよう、これからも日本のトマトと向き合い続けていきます。
「日本のトマト」をもっと知る
創業以来、「畑は第一の工場」という考えを大事にしているカゴメ。国産トマト100%ジュース「日本のトマト」は、毎日おいしく飲み続けられるよう、健康直送便でお届けしています。
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