「小1の壁」の後にも"壁"は続く。入学後は時短?フルタイム?息切れしない働き方を考える
新学期は、学校生活で心配なことが増えたり、さまざまな家庭の子育てに触れる機会が訪れたりする時期。小学生の子育てには、乳幼児期とはまた違った悩みが生まれます。OTEMOTOでは、親子サポートプロジェクト「6歳からのneuvola(ネウボラ※)」をスタート。こどもが小学1年生になる保護者が悩みがちなテーマについて、"先輩"や"同期"にあたる保護者たちのリアルな声を紹介していきます。
ひとつの正解はないけれど、みんながどう対処しているのかを知ることで、「うちの子には何が合うのか」を考えるヒントになりますように。2回目は「親の働き方」について考えます。
※ ネウボラ = フィンランド語で「アドバイスの場」という意味。妊娠期から子育て期まで切れ目のないサポートを提供する自治体が日本でも増えています。
いまの働き方では難しい
「いまの私の働き方では、朝7時半から午後6時までこどもが家に帰れないうえ、帰宅後も『早く寝かせないと』というプレッシャーもあり、親子でゆっくり過ごす時間が確保できません。小学校に入学したら仕事をセーブすることを検討しています」(30代母親 / 年長男子 / 千葉県)
「いままでは実質、時短勤務ができていなかった。学童などでトラブルがあっても対応できるように、しっかり時短勤務をする予定です」(40代母親 / 年長男子 / 東京都)
こどもが小学校に入学するタイミングで、仕事と子育ての両立がより難しくなることを指す「小1の壁」という言葉が知られています。
雇用形態や業種、勤め先の制度や家族構成にもよるため、誰もがこの時期に"壁"に直面するわけではありませんが、アンケートで質問したところ、「働き方をゆるやかにしたい」という声もあがりました。
フリーランスやリモートワークなど女性の多様な働き方を支援する人材サービス企業「Waris(ワリス)」によると、同社の人材紹介サービスに登録する人の中には、こどもの入学のタイミングで働き方を見直したいという人も少なくないといいます。
「『小1の壁』と言われる通り、小学生になるこどもと向き合うためには、いままでの働き方を続けるのは難しいと感じる人もいるようです」と、Waris共同代表の田中美和さん。その理由は2つあると言います。
1つ目は、保育園と小学校の預かり時間の差。
延長保育で午後7時ごろまで預けることができる保育園と比べ、小学校は午後2時から3時半ごろに授業が終わり、学童保育に通わせたとしても午後6時ごろまで。一方で、勤め先の短時間勤務の制度はこどもが未就学の期間しか使えないこともあるなど、こどもと親の時間のギャップが発生することがあります。
2つ目は、小学校に入学した後の環境の変化。
宿題をする様子を見守ったり、音読を聞いたり、提出物や翌日の準備を確認したりと親が毎日やらなければならないことが増えるほか、習い事に送迎したり、保護者会やPTAなど学校行事に参加したりと、アウトソースではさばききれない関わりも生まれます。また、慣れない環境で変化するこどもの体調をサポートする必要もあります。
「つまり『小1の壁』は、企業が制度を整えるだけで解決できるものでもなく、親が仕事と育児の優先順位をどのように調整するかというマインドセットの課題もあるのです」(田中さん)
結局はサービス残業
こうした状況の中で、多くの親がまず検討するのが短時間勤務(時短勤務)です。
短時間勤務は育児・介護休業法により定められており、所定労働時間を原則1日6時間に短縮できる制度で、そのぶん基本給も減額されます。
ただ、現状は3歳未満のこどもを育てている人が対象。3歳以降も時短勤務を認めるかどうかは各企業の判断によります。厚生労働省の雇用均等基本調査によると、小学校入学後も時短勤務ができる事業所は2022年度で約43%のため、勤め先の就業規則を確認する必要があります。
「通っていた学童では1年生だけ保護者による迎えが必須だったため、1年生のうちだけ時短を利用しました。1時間半早めて午後4時半に退勤させてもらっていました」(30代母親 / 6年生女子 / 東京都)
「3歳までしか時短が取れないため、時差出勤を取得。朝早いので、夏休みは弁当をつくってから出るのが大変だった。7時前には家を出ていました」(40代母親 / 1年生女子 / 東京都)
勤務時間が減って家事や育児をする時間の余裕が生まれる一方、収入が減ることや、実際の業務量は変わらないのではないかと懸念する声もありました。
「時短していますが、自営業なので収入減になっている」(30代母親 / 1年生男子 / 岐阜県)
「妻に時短を取ってもらっていたが、結局はサービス残業(公務員なので残業代が出ない)が多く、フルタイムで働いたほうがよいと結論を出しました」(30代父親 / 年長男子 / 神奈川県)
「下の子が小学生に上がるタイミングで時短を解除しました。お迎えが不要になったため、1人で帰宅できることと、帰宅したときに夫、上の子がいるためフルタイムでの就業が可能となりました。会社の制度を利用し、30分前倒しの就業時間での勤務にしています」(30代母親 / 1年生女子 / 東京都)
稼ぎたい、質を落としたくない
前出のWarisの登録者は30代40代が中心で、平均年齢は38歳。こどもが小学生になる時期は、管理職になったり責任ある業務を任されたりと、キャリアの重要な局面と重なる人も少なくありません。
「出産前から管理職で、管理職で復職したので、時短勤務が難しかった。時短に切り替えた場合、給料が大幅に減ることも問題視していたし、やることは変わらないという認識だった」(40代母親 / 1年生男子 / 埼玉県)
「仕事を中断して、帰宅後に落ち着いてから再開するため、時短勤務の必要がない。過去に時短をしたことがあるが、業務の量は変わらなかったため、質がかなり低下してしまった」(40代母親 / 3年生女子 / 奈良県)
「きちんと働いて稼いで、将来的に年金もしっかり受け取りたいので、時短勤務にはしません。わが家の地域は小学3年生まではだいたい学童に入れるし、公立も民間も学童は午後7時まで開いているので、保育園時代と同じように働くことができます」(40代母親 / 年長女子 / 埼玉県)
「フリーランスだったので時短勤務はしていませんでした。コロナ禍でリモートワークができる会社に会社員として転職し、結果的に一度も時短はしませんでした」(40代母親 / 3年生男子 / 神奈川県)
こどもが目の前にいるのに
いったん親が働き方のスタイルを定めても、こどもの様子によっては変えていかなければならない可能性があるのも、小学生ならではの問題です。
「小学校1年生の夏休み前にこどもが不登校になったことをきっかけに、時短勤務に変更しました。こどもの異変が深刻なものだと家庭側で気づくのが遅れ、安心して送り出せるようになるまで1年近くかかりました。小学校入学後はもう少し余裕をもってこどもの状態を注視したほうがよかったと後悔しています」(40代母親 / 2年生男子 / 東京都)
「週2日ほど在宅勤務をして、こどもを自宅で迎える生活をしてみましたが、仕事にならず半年で断念しました。業務が立て込んでいる親と、いつも通りに一緒に過ごそうとする子の間でギャップと衝突が起きて悲しいことになる。こどもからしたら、目の前にいるのにずっと相手にしてくれない状態だったのでしょう」(40代父親 / 2年生男子 / 東京都)
「時短はしなかったのですが、朝も遅くなり、宿題や音読が増えました。宿題のケアまではできないです」(40代母親 / 3年生女子 / 茨城県)
「楽になる時期」まで耐えないで
仕事で忙しくしているせいでこどものサポートが十分にできていないのではないか、と悩む親たちに、田中さんはこうアドバイスします。
「仕事で貢献したいという思いと、こどもにとって大切な時期にしっかり向き合って二人三脚で乗り越えたいという価値観とのはざまで葛藤する人もいます。でも、完璧を目指す必要はないんです」
「育児の面ではひとりですべてやろうとせず、パートナーや親戚、近所のママパパ友、外的なサービスなど、周囲の力をどんどん借りてください。またキャリア形成の面では、中長期的な視点をぜひ持ってほしいです」
田中さん自身にも、4月から小学生になる娘がいます。「小1の壁」のプレッシャーを実感しているからこそ、「子育てやキャリアを俯瞰して見るように意識することが大事です」と話します。
「乳幼児期には乳幼児の育児に特有の大変さがありましたし、『小1の壁』のあとにも、人によっては中学受験だったり、高学年になると友達関係の複雑さが増したりと、"壁的"なライフイベントはこれからも絶え間なく続いていくはずです。子育てには『楽になる時期』というものはなかなか訪れないのではないでしょうか」
「ですので短期戦のつもりで無理をして乗り越えようとすると、息切れしてしまいます。そのときに自分が何を優先したいのかを考えながら、そのつど自分にフィットする働き方を自律的に選んでいくことが大切です」
また、働き方を見直すことでキャリアを失う不安や焦りを感じるという人には、こうアドバイスします。
「いまは雇用の流動性が高まっており、正社員からフリーになると二度と正社員に戻れないというようなことはありません。労働人口が減り、個人が企業を選ぶ時代です。どんな働き方を選ぶのか、この職場でどういう働き方をするのか、多様な選択肢の中からありたい姿を見つけてほしいと思います」
親子サポートプロジェクト「6歳からのneuvola(6neu)」では、保護者の働き方のほか、学校行事の分担、携帯電話、おこづかい、ゲーム、勉強場所などのテーマを順次、取り上げています。アンケートは引き続き募集していますので、ご意見やご経験をお寄せください。
また「6neu応援団」として、課題解決をともに考え、親子をサポートする企業や団体を募集しています。詳しくはこちら(contact@o-temoto.com)からお問い合わせください。