美しくなる秘訣よりも語るべきことがあった。マリエさんが考えるファッションとサステナビリティ

小林明子

モデルで実業家のマリエさんが立ち上げたファッションブランドに、サステナブルな未来を伝えるキャラクター「Plastic Monster」が生まれました。その初めての作品展が東京・渋谷で開かれています。キャラクターの生みの親であり現在第1子を妊娠中でもあるマリエさんに、ファッション業界でサステナビリティと向き合う姿勢についてうかがいました。

マリエ / CEO/デザイナー/アクティビスト/環境省森里川海アンバサダー
日本でのタレント活動を経て2011 年のアメリカ・ニューヨークのパーソンズ美術大学へのファッション専攻留学を契機に、2017年6月、自身がデザイナーを務めるブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ)」を設立。ファッションの観点から環境問題に積極的に取り組み、工場や職人など生産者の声に耳を傾けるため全国を飛び回る。ファッション新聞WWD JAPANでサスティナブルアートコミック・コラムを連載中。
@_yuta_kato_ for OTEMOTO

ある「勝手な後悔」

ーーマリエさんはファッション誌「ViVi」のモデルやタレントとして活躍されたのち、2017年に自身のブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカルマリエデマレ)」を立ち上げてもう5年になりますね。

はい、ブランドは5年、起業してからはすでに10期目に入りました。最初はデザイナーとして企業の制服のデザインなどを手がけていました。2017年に、ファッションを通してサステナブルを発信しようとオリジナルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS」を立ち上げたのは、私自身、後悔していることがあったからなんです。

ーー後悔、といいますと。

18歳から23歳にかけてメディアで精力的に活動していたときに、多くの人に影響を与える立場だったにも関わらず、大切なことを伝えられていませんでした。

当時は毎日のように取材を受けていたんですが、「美しくなるヒントは?」「どんな化粧品を使えばいいの?」「スタイルを保つ秘訣は?」といった質問に対して、若かったし無知だったので、何も疑問を持たずに答えていたんですね。

ところが、23歳のときに体調を大きく崩してしまいました。それからも長く苦しむことになる摂食障害が原因です。

そこから、生活スタイルを抜本的に見直しました。自分が目指す状態まで回復するプロセスの中で、健康を取り戻すための一つひとつの選択肢が、結果的に地球の健康、つまり環境を持続可能にすることにつながるんだと気づきました。

自分が健康でいるためには、同時に地球の健康が保たれていないと意味がないのです。どちらもイコールなのだということがわかったのです。

その経験を通して学んだことを、多くの人の生活のヒントにしてもらえたらと思うようになりました。若いときにきちんと伝えられなかったという「勝手な後悔」をするとともに、ではこれから何ができるだろうと考えました。

昔からファッションが好きでしたし、ニューヨークのパーソンズ美術大学に留学して学んだ経験もあったので、ファッションというツールを使って地道に伝えていきたい、とブランドを立ち上げました。

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工場で廃棄する布をもらう

ーーブランドを立ち上げた当初は、地方の生産者や職人さんを訪ねていらっしゃいました。しかし、そのあとにコロナが起きてしまいました。

ブランドのスタッフとバスを借りて日本全国を2カ月かけて回るツアーをしました。北は青森から南は鹿児島まで、職人さんやお客様に会いに行く活動からはじめたんです。

現地を訪れると、工場でどんな問題があるのか、廃棄物はどうしているのか、といった細かいことがわかります。私たちは立ち上げたばかりのブランドだったので、使わなくなった生地や廃棄処分されるような切れ端を譲っていただいて商品に活用させてもらったりしていました。

地方の信用金庫とお付き合いをして、もっと仕事がしたいという工場を紹介してもらったこともありました。私たちは仕事の頼み先が見つかるし、工場は仕事が増えて、信用金庫は取引口座が盛り上がる。そういうことを何回も繰り返していたので、コロナ禍になっても困ったことはあまりなく、むしろ仕事や新しいサステナブルな出会いの情報などをいただくことのほうが多くなっています。

ーー商品だけでなく取引の仕方もサステナブルなんですね。実践するには熱意と労力が必要そうですが......。

サステナブルな活動は、いまだにお金にならないんじゃないかと思われがちです。特に地方の中小企業の社長さんたちは、ボランティアでやらなければならないんじゃないか、ビジネス上のメリットがないんじゃないか、と思っている人が少なくありません。その先入観をほぐしていくところを、昨年の後半はミッションとしてやってましたね。

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客が断りたくなる理由をつくる

ーーともにビジネスをしていく人たちを巻き込んでいくときには、お金になるかどうかも重要なポイントですね。

知られていないだけで、企業にとっても得になることがたくさんあると私自身も学びました。

例えば、多くのアパレルブランドはショップバッグとして商品を紙袋に入れてお客様に渡していますが、ある全国展開のセレクトショップはTシャツ1枚を買った人にも、ロゴ入りの布製エコバッグに入れて渡していました。「コストがかかりませんか?」と聞いたら、実はロゴ入りの紙袋を生産するよりも安くあがるからエコバッグにしたのだと教えてもらいました。

もちろん発注する数にもよりますが、紙袋のほうが安いと思い込んで続けていたのに、実はもっとコストを削減できる方法があったわけです。そしてお客様がまたそのエコバッグを使ってくれれば、ゴミも減らせます。

私たちがポップアップストアをやるときには、お客様がエコバッグを持ってきてくれて「マリエさんのブランドではショップバッグは必要ないでしょ」とおっしゃってくれます。

結果的に企業としても節約になるので、そのための企業努力は小さいことからできると思っています。私たちも念のためショップバッグとして紙袋を用意してはいるのですが、あえて取っ手のないものにしています。パン屋さんのように抱えて持ち帰るスタイルのものです。

ストアのスタッフには、紙袋の用意はあるけれど取っ手がないものだとお客様に事前に説明するように、と伝えています。取っ手を握ったり腕にかけたりできない「パン屋さんスタイル」の袋だとわかると、持ち運びが不便なので「だったらいりません」と断る方も多いです。

用意はするけれど、すごく便利なものではないというところに私たちのメッセージをこめています。お客様が断りたくなる理由をつくるのも企業の努めだと思っています。

ショップバッグや配送用の段ボールは、使用済みのものにブランドのスタンプを押して再利用している
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

使用済み段ボールを再利用

ーーサステナブルというと地球規模の課題解決のイメージがありますが、そうやって一人ひとりのスタッフの声かけからでも取り組めるんですね。消費者や業界の変化は実感していますか。

商品の包装に関しては、ビニールを紙にしたり、余ってしまった廃材の布で包んだりしていますが、苦情を受けたりコンプライアンス的に問題があったりしたことは一度もなく、お客様には理解を得られていると実感しています。

配送時に使う箱についても、使用済みの段ボールを再利用しています。段ボールは古紙として回収して再生させることもできますが、再生の過程で一定のエネルギーを消費します。なので単純にまだ使えそうな別のブランドや商品の段ボールに、私たちのブランドのロゴをスタンプして使っています。配送の際にご説明しているからか、これも苦情をいただいたことはないです。

ただ、大手の通販プラットフォームは配送のルールが決まっていて、商品を1点ずつビニールで包まないと納品を受け付けてもらえないところもあります。独自に年間のビニールの量を試算してみたらとんでもない量になったので、そこと契約するのはやめました。お金を稼ぐためには納品したかったのですが、プラゴミを増やすことには加担したくなかったのです。

いままでなら当たり前だった顧客サービスの一環として決められたルールが、結果的に膨大な量のゴミを生み出しています。もちろん、食品や割れ物など包装が必要な商品もありますから、一概に批判したいわけではありません。でも、厳重な包装が必要な商品を売っているわけでもない私たちが、できることからアクションをすることが大事だと思っています。

地球の環境負荷ランキング世界第2位と言われるファッション産業からみる様々な” 気付き” をキャラクターたちがシニカルに提示・警鐘を鳴らしていくアートコミックとサステナブルファッションについてのコラムを毎週WWDJAPAN にて連載中。
@_yuta_kato_ for OTEMOTO

「かわいい」の影響力の限界

ーーブランドから生まれたキャラクター「Plastic Monster」は、4コマ漫画で風刺をまじえながらサステナブルな提言をしています。商品開発やビジネスの背景にあるストーリーを伝える役割なのでしょうか。

Plastic Monsterは、太平洋を漂うプラスチックのゴミから生まれた設定のキャラクターです。WWD JAPANの週間紙面で2021年2月に連載が始まりました。キャラクターが4コマ漫画を通してファッション産業を中心としたさまざまな分野の現状にシニカルに警鐘を鳴らし、サステナブルな未来を伝えるストーリーです。

長期的にメッセージを伝えていくためには、スヌーピーのようにいつまでも存在して人気者であり続けるキャラクターが必要ではないかと思うようになり、3年ほど前から構想していました。

私はいま35歳で、かわいい、きれい、まねしたい、と言われる存在として物事を語り続けることができる期間の限界について考えるようになってきたからです。

ーー若さや美しさを至上とする価値観は変化していくのではと思いますが、マリエさんがそう感じるのは、一世を風靡して大きな発信力を持った経験からでもあるのでしょうか。

はい、やはり20歳前後でエンターテイメント業界に身を置いて、先輩たちのプロフェッショナルな仕事ぶりや責任感に触れた経験がそのあとの仕事観に大きく影響しています。当時はよく理解できていなかったものの、年齢を重ねてあとから気づかされることがものすごく多かったんです。あのときに発信できなかった後悔が根底にあります。

それで、年齢や見た目といった先入観がないキャラクターを長い時間をかけて育てていくことで、よりフラットに末永くメッセージを伝え続けられるのではないかと考えるようになりました。

私自身も日々学んでいるので、以前はいいと思っていたものが実はそうではなかったという気づきがたくさんあります。先ほどのエコバッグのほうが安かったというのもそうです。気づかないうちに大量生産に加担していたり、プラスチックに包まれた商品を買っていたりということもありました。

なので、自分では言えないようなことでもキャラクターにならハッキリ言ってもらえるというメリットもあります。

ブランドの倉庫の在庫だった洋服を職人がアップサイクルしたぬいぐるみは、1体1体に名前がついている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

ーー今回は、Plastic Monsterがメインでは初めての作品展ということですね。

Plastic Monsterが生まれてから初めて大きな作品展をやらせていただくということで、気合が入っています。

これまでもいくつかのブランドとコラボしてきましたが、今回はストリートブランドを代表する「XLARGE(エクストララージ)」「X-girl(エックスガール)」の2つのブランドとコラボして、Tシャツやタンブラーなどコラボ商品の展示販売をしています。

また、2つのブランドの倉庫で眠っていたTシャツやパンツなどを職人がアップサイクルして生まれ変わらせたぬいぐるみも限定販売しています。ファッション業界が長く頭を悩ませている在庫問題についての一つのアイデアと実践です。

普段の小さな4コマから引き伸ばされて1枚1枚の絵がアートになっているので、Plastic Monsterの愛くるしい魅力を多くの人に知ってもらいたいです。

Akiko Kobayashi / OTEMOTO

摂食障害に悩んだ経験から

ーーもうすぐ第1子の出産を控えていらっしゃいます。これからの活動の展望を教えてください。

34歳で妊娠して35歳で出産予定なので高齢出産ということになるのですが、自分の身体と向き合いながら、いま一度、人が生きるということについて考えています。

生まれてくる娘にこれからどんな未来を渡してあげることができるのか、そのためにいま何ができるのか。1980年代に生まれた私とは、過ごす環境も、受ける教育も、まったく違うものになるだろうからこそ、変化を楽しみながら向き合っていきたいです。

出産後はブランドの運営だけでなく、自分自身でも新しいライフスタイルを提案できるような活動をしていきたいと思っています。特に食生活については、私自身が長く悩んできた摂食障害にも焦点をあてて、女性たちを応援する活動をしていきたいです。

「Plastic Monster “Wonder Vision with the XL / XG !!” 」は2022年8月15日(月)まで、東京calif SHIBUYA(東京都渋谷区宇田川15-1 渋谷PARCO 5階)にて開催中。入場無料。詳細はこちら

(サムネイル画像:@_yuta_kato_ for OTEMOTO)

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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