選挙に出るなら2人目は産めない...と悩む。「出馬は育児放棄だ」と言われる地方議員のリアル

小林明子

子育てしやすい社会にするために議員になったのに、自分はこどもと過ごす時間が削られ、「育児放棄だ」と批判されるーー。子育て中の地方議員を対象としたアンケートで、そんなジレンマが明らかになりました。同じ政党の議員や子育て中の有権者など「同じ立場の人や味方だと思っていた人による無理解やバッシングがつらかった」という声もあがっています。

このアンケートは、地方議員が子育てと政治活動を両立するうえでどのような困難に直面しているかを把握するために、地方議員4人による超党派の「子育て中の議員の活動を考える会」が実施。2023年11月〜2024年2月、未就学のこどもを育てながら選挙に当選した首都圏1都3県の50代以下の現職議員に呼びかけ、95人から回答を得ました。

子育てと政治活動の両立に課題を感じている議員から回答が集まりやすかったという背景はあるものの、両立に「困難を感じたことがある」と答えた議員は、当選前の選挙活動については9割、当選後の議員活動については8割にのぼりました。

子育て中の議員活動を考える会
超党派の地方議員らによる「子育て中の議員の活動を考える会」の記者会見(2024年4月15日)
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

女性議員・候補者のサポート団体であるStand by Women代表の濱田真里さんは、アドバイザーとしてアンケート結果をこう解説します。

「子育て環境を改善したくて立候補した結果、自らの子育てを犠牲にしなければならないという現状が明らかになりました。24時間365日を活動に使えないことに対する周りの理解不足が、当事者にとって大きな壁になっています。働き方改革を進めない限り、議員のなり手は増えていかないでしょう」

告示翌日に出産

発起人で横浜市議の小酒部さやかさんは、不妊治療を経て授かったこどもが0歳と2歳だった2018年に初めて立候補し、落選。2023年に初当選しました。

「未就学のこどもを抱えた選挙は苦しく、50票差で落選したときは『もっと活動できていれば』と後悔したこともあります」

仕事と育児の両立
写真はイメージです
Adobe Stock / yamasan

東京都昭島市議のゆざまさ子さんはシングルマザー、世田谷区議の薗部誠弥さんは2児の父親で共働き、北区議の佐藤ことさんは告示翌日に2人目を出産。「考える会」の議員メンバーはいずれも子育て当事者です。

夕方になると保育園にこどもを迎えに行き、スーパーで食材を買って帰り、休日には公園に行き、運動会でこどもの成長を喜ぶ。有権者と同じように生活実感をもって仕事と育児を両立している議員は、地方議会においてはマイノリティです。

総務省がまとめた地方議会議員の概況によると、40代以下の地方議員は、都道府県議会で28.7%、市区議会で19.9%、町村議会では9.6%。若い世代の議員が少ないうえ、子育て中の議員となると極めて少数。地方議会で働き方改革が進まない一因ともなっています。

選挙と子育てで板挟み

今回のアンケートでは、当選前の政治活動や選挙活動と、当選後の議員活動において、困難を感じたことについて聞いています。

当選前に困難を感じたこととしては、選挙活動に割く時間とこどもと過ごす時間との「板挟み」が多くあがりました。

また、周りとの関係で「出産や育児によって生じる時間的な制約に理解が得られない」と答えた人が多く、最も多かった相手は「有権者」でした。

自由記述には、リアルな体験がつづられていました。

「街頭演説で子育て政策について話したら『まだ早いのよ!こどもを育ててからにしなさいよ!』と吐き捨てられた。その日は朝からこどもの機嫌も悪く、申し訳なさから泣きながら街頭演説をした」

「選挙に出馬することが『育児放棄だ』と言われた」

「夜の会合や宿泊などのとき『こどもの宿題は誰がみているのか』と母親の役割分担を特定して偏見をもった発言をされ続けた」

「妻も会社員で共働きだが、両親から支援がある家庭とは雲泥の差があり、『あいつは来ているのにお前は来ない。付き合いが悪い』と言われた」

「『子育てしたことあるなら選挙カーがうるさいと知っているだろうになぜ出すのか』など、同じ立場の人のために役に立ちたいと思って出馬したのに、その人たちからバッシングにあったことが悲しかった」

また、出馬するために無職になったことにより保育施設に預けることができず、やむなく子連れで活動すると、有権者から「怒鳴られた」「『票稼ぎ』と言われた」などの声もありました。

こどもの行事に行けない

議員になってからは、早朝深夜や土日の活動、宿泊を伴う視察など、時間的制約に困難を感じるという回答が多数となりました。有権者だけでなく、同じ党の同期や先輩議員、同じ選挙区の他党の議員などに理解されづらいという声があり、制約のない働き方を想定して運営されている議会がいまだに多くあることがわかりました。

子育て中の議員の活動アンケート
出典:子育て中の議員の活動を考える会アンケート調査 / 編集:OTEMOTO

泊まりの視察をとても負担に感じる。先輩女性議員から『視察は出るように』とこちらの育児の状況も聞かずに言われ、プレッシャーを感じた」

「夜の会合が多く、欠席すると、他党で同じ子育て中の議員が自身の経験を押し付けてくるのが苦しかった

「本会議は休めないので、こどもが熱を出しても一緒にいてあげられない

「こどもの行事と本会議が重なると、行事に絶対に出席できない」

議会が何時に終わるかわからないため、保育園の迎え時間の約束がそもそもできず、延長保育の受け入れに理解が得られなかった。コロナ禍で学校が休校になっても議員はリモートワークが難しく、対応がとても困難だった」

地域の祭りだけが役目じゃない

どうすれば、議員としての活動と子育てを両立しやすくなるのでしょうか。改善の要望で最も多かったのは「オンライン会議の充実」です。

小酒部さんによると、オンラインの会合や視察を実施している議会はあるものの、自治体によって運用はさまざまだそう。対面の必要性や費用対効果が議論される以前に、「議員たるもの顔を出してなんぼ」といった固定観念があるのが現実です。アンケートにはこのような回答もありました。

「地域の行事への顔出し以外の議員の役目があることを、有権者に知ってほしい。地域の祭りに貢献したり朝の見守りをしたりする議員が高い評価を得がちですが、固定観念になっている議員のあり方が多様化するよう、私たちが問題提起や発信をしていかなければなりません」

アンケートでは、自ら働きかけて議員の働き方を改善した事例として、以下のような報告もありました。

・議会のこども同伴

・議会基本条例に産休の期間の明記

・委員会のオンライン化

・本会議や委員会の日程分割

・サイト上の議員の住所非公開

東京都議会では、議員だけでなく職員の長時間労働も問題になっていたことから2023年、本会議の代表質問を「午後9時をめどに終える」というルールができています。

「子育て中の議員の活動を考える会」は2024年4月15日、アンケート結果と要望書を岸田文雄首相らに提出。全国的な調査や、相談窓口の設置、柔軟な働き方のためのガイドライン策定などを求めています。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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