新聞広告がひとりの高校生の運命を変えた。企業の中の17歳はいま

小林明子

「ユーグレナ初代CFO」「丸井グループ最年少アドバイザー」として、17歳のときから企業の経営戦略の策定に関わり続けている小澤杏子さん。「社会をよくするために、企業の中からスピード感をもって取り組みたいから」というのが、大きな理由です。いま大学2年生となった小澤さんに、仕事観について話を聞きました。

小澤杏子(おざわ・きょうこ) / 2002年生まれ。東京学芸大学附属国際中等教育学校に在学中の2019年10月、ユーグレナの初代CFO(最高未来責任者)に就任。2021年4月に早稲田大学社会科学部入学。Forbes JAPAN「30 UNDER 30 JAPAN」に選出される。同11月に丸井グループのアドバイザーに最年少で就任。「ABEMA Prime」などに出演
提供写真

大学の授業を終えたばかりの小澤さんは、MacBookの入った大きなバッグを肩にかけて、待ち合わせ場所の新宿のカフェに現れました。フルーツが載ったフローズンドリンクが運ばれてくると、すばやくiPhoneを近づけてカメラにおさめ、「いまどきの子なんで」と笑います。

企業の中から変えていく

ーーさっきまで何の授業を受けていたんですか?

「グローバルビジネス論」です。企業はどうやってお金を動かしているのか、どのように経営判断をしているのかを学びたくて履修しています。

17歳のときからユーグレナで経営に関する提言をさせてもらっていたので先に実践はしていて、知識のほうを後追いでつけているところです。

ーー高校2年生だった2019年、バイオベンチャー企業「ユーグレナ」の初代の「最高未来責任者(CFO)」として500人を超える候補者の中から選ばれ、話題になりましたね。

CFOとしての1年間、とても貴重な経験をさせていただきました。

同世代の「Futureサミットメンバー」の8人とともに、石油由来プラスチックの削減を取締役会に提言した結果、2020年9月から同社で飲料用ペットボトル商品が全廃されました。

この経験がきっかけで、企業のことをもっと知りたいと思うようになりました。

同世代で社会課題の解決に取り組んでいる人は多くいますが、学生団体やNPOで活動している人や個人でSNSで発信している人からすると、企業の中に入り込んでいる私は異色な存在だろうと自覚しています。

ーー異色、というと。

学生団体として活動する場合、企業や団体や政府を動かすために、さまざまなプロセスを踏まなければなりません。一方、企業の中にいると、提言してからそれが実行されるまでのプロセスが組織内で完結するので、一貫してスピード感をもって進めることができます。

私はふだん30代、40代、50代の企業の方たちと関わっているので、興味関心や話題が学生団体の方たちとは少し異なっていることもあります。

どちらも必要な活動ですが、みんなが同じことをやっていても意味がないので、私は「企業の中」から変えていく役割のほうに魅力を感じています。

2019年10月、ユーグレナの初代CFOに就任。社長の出雲充さん(右)と代表執行役員CEOの永田暁彦さん(左)と。
株式会社ユーグレナ提供

たまたま評価されやすかった

ーー2021年には、Forbes Japanの「30 UNDER 30 JAPAN(世界を変える30歳未満)」に選ばれました。Z世代を代表するアクティビストとして期待されることも多いですが、どう感じていますか?

Z世代として期待されることに、責任やプレッシャーなどは感じたことがありません。

たまたま、私の興味や関心のあることが「人に褒めてもらいやすい活動」だっただけで、K-POPが好きだったり、アイドルを追っかけていたりすることと、根本は同じなんです。

最近は丸井グループのアドバイザーとして店舗を視察したり、インターネット番組に出演させていただいたりすることもあって、友達に「今日授業に遅れそうだから席をとっておいて」と連絡すると、「杏子は偉いね」と言われることがあります。

でも、飲食店や塾講師のアルバイトもお金を得るという点では同じはず。お互い体験したことがないことを知らないだけです。「大変なのは同じじゃない?」というと、みんな「あ、たしかに」と納得してくれます。

体育祭では運動が得意な子がキラキラして見えるし、文化祭だと演劇がうまい子が評価される。私にとって熱中できて強みを生かせることが、たまたま一般的に評価されやすかったというだけのことなんです。

ーーユーグレナのCFOに応募したきっかけは何だったんでしょうか。

新聞広告です。

ーーということは、紙の新聞を読んでいるんですね!

はい。親が毎朝、新聞を置いてくれています。

SNSではタイムラインに同質性の高いニュースが流れてくるので、情報操作されているようで抵抗があります。取り入れる情報が偏らないように、プロの手でニュースが編成された新聞を読むようにしています。

小澤さんが初代CFOの募集を知ったのは、新聞の全面広告だった
株式会社ユーグレナ提供

3年前、ユーグレナが18歳以下のCFOを募集するという全面広告が新聞に出ていたのを見つけました。一面が緑色のとても印象的な広告でした。

インターネットやプレスリリースでも募集を出していたのでしょうが、私はあの新聞広告を見ていなかったらきっと応募していませんでした。

企業が若者向けに、インターネットでカジュアルに広告を出したり、インスタグラムのストーリーズの間にアルバイトの募集広告を挟んだりしているのをよく見かけますが、それだと「よくある募集」としか受け止められません。

全面広告を出すためにどれだけのコストと時間をさいて準備をしたんだろう、と高校生なりに想像し、ユーグレナの「本気度」を感じて、あれは刺さりましたね。それで会社情報を調べて、応募しました。

新聞に投書した中学生

ーー中学生のときに原発に関する意見文を学会誌で発表したり、高校1年のときに友人と取り組んだ研究「フラボノイドと腸内細菌の関係」が学会で受賞したりと、早くからアカデミックな活動をされていますね。

東日本大震災が起きたときは8歳だったんですが、テレビで津波が迫ってくる光景が忘れられなくて、強く印象に残っていました。

中学3年生のときの授業で、「立場の異なる人が原発について語る」というテーマで答えのないディベートをしたことがきっかけで、より理解を深めたいと思うようになりました。新聞に投書したり福島を訪れたりして、校外での個人的な活動に発展していきました。物怖じしないタイプなので、機会があれば迷わず飛び込んでいったことも、次から次へと活動がつながった理由だと思います。

ーー家庭の教育というより、学校の影響が大きかった?

幼稚園のころから、勝手に公園に遊びに行ったりザリガニを捕りに行ったりする子どもだったので、両親も私の性格をよくわかっていて、あれをしろ、これをしろ、と干渉された記憶はありません。やりたいと言ったことは全肯定してくれました。

帰国子女だったので中学受験の苦労はありましたが、通うことになった東京学芸大学附属国際中等教育学校が自分にすごく合っていて、母校での6年間は、自分を成長させてくれた環境だったと思います。

提供写真

コスメを買うマイルール

ーーいま大学2年生で、そろそろ就職についても具体的に考え始める時期でしょうか。

いまはおもしろいと思ったことを雑多にやっていますが、企業に所属するとなったらまずは業界を決めなければならないので、そこがまだぼんやりしています。商社に行きたい、メーカーで働きたいというわけではなく、既存の企業をよくしていくために仕組みをつくったりシステムを改善したりすることに関心があるからです。

昔は当たり前だった職場の性別役割分担が少しずつ解消されてきたように、時代の変化とともに価値観は変わります。いまは良いとされることでも、これから先に時代遅れのパワハラやセクハラを引き起こす可能性もあります。時代に合わせて企業が仕組みを変えて適切なアプローチができるように、一緒に変えていきたいです。

雇用形態や働き方などさまざまな選択ができる中で、企業理念に共感できるかどうか、尊敬できる人がいるかどうかも大事にしたい部分です。

テレビ出演するときには出演者やスタッフの方からさまざまなことを教えていただいています。尊敬できる人と働けるかどうかが仕事をするときの重要なポイントになりつつあります。尊敬するメイクさんには、メイクのたびにおすすめのコスメを一つ教えてもらって、それを買うことをマイルールにしています。そういう小さなことが、仕事の楽しみになると実感しています。

「ゲームは悪い」と誰が決めた?

ーー仕事を通して、どんな世界を実現したいと思いますか。

「みんな違ってみんないい」が実現するといいなと思います。ひとりひとりの個性は尊重されるようになりつつあると感じますが、「ゲームをやってる子は悪い子で、本を読む子はいい子」といった規範意識のようなものがいまだにあります。「誰が決めたんだろう」と疑問に思います。

私は「あつまれ どうぶつの森」で、魚や蝶や花の名前を覚えました。図鑑よりゲームのほうが勉強になったので、一概にゲームが悪いとは言えないと思います。

アカデミックな活動のほうが、K-POPを追いかけるよりもいいという価値観によって、私の活動が評価されがちなこともそうです。誰もが好きなものが尊重される社会であってほしいです。

学歴や収入など評価しやすい一定の軸で上か下かと決めつけるのではなく、それぞれの強みが認められるようになってほしい。きれいごとかもしれませんが、そんな社会であってほしいし、そんな社会をつくることに貢献したいです。正しさって、人がつくり上げていくものなので、時代とともに変えていかなければいけないと思います。

Z世代からつなげるバトン

ーーこれから社会を牽引するひとりとして、どんなことを考えていますか。

いまはZ世代が主役だと言われていますが、そのうち次なる世代が出てきます。前の世代も後の世代も、それぞれプレッシャーをかけられていて、これって何代も続いていくものなので、Z世代だけが未来を押し付けられているわけではないと思います。それよりも、上の世代でここまで成し遂げられたんだから、私たちは次の世代に何を残せるのか、そのためにどう進めていくのか、と前向きなバトンとしてとらえています。

いま関心があるのは、資本主義のあり方です。大量生産・大量消費から脱却してサーキュラーエコノミー(循環型経済)にシフトしていくときに、資本主義が前提としてあると矛盾が生まれます。

世の中を平等にしよう、みんなで共生しよう、というときにも、資本主義においては強者がいれば弱者もいて、勝つ人もいれば負ける人もいます。より多くの人が幸せになれるために、資本主義ではない「新しい主義」を模索しなければいけないのではないでしょうか。

需要と供給がある限り経済は回りますが、人がいいと思うものが変わればお金を使うものが変わるはずで、どこを見直すと最も変わりやすいんだろうな、とか、どういうスタンスがいまの時代に適切なのかな、ということを考えています。どこを許容して、何を守り通すのか。次の世代へのバトンとしてしっかりと考えていきたいことです。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
SHARE