「家に給料を入れるね」大学進学をあきらめる高校生も。物価高騰の深刻な影響

小林明子

物価高騰は、ひとり親などでこれまでも困窮していた子育て世帯の家計を直撃しています。困窮世帯に食料支援をしているNPOの調査では、食費や光熱費を切り詰めているだけでなく、高校生の進路にも影響を及ぼし始めていることがわかりました。

子どもの貧困問題に取り組む認定NPO法人「キッズドア」が2022年11月、食料支援プログラムに登録している困窮子育て世帯を対象に調査を実施。児童扶養手当や生活保護を受給しているひとり親家庭などが多く、世帯年収300万円未満の家庭が約9割を占めています。1846件の回答があり、回答したほぼすべての家庭が、物価上昇により家計が「厳しくなった」と実感していました。

キッズドア理事長の渡辺由美子さんは、「コロナ禍やそれ以前から困窮している家庭にとっては、物価高騰によっていよいよ苦しい状況になっています」と話し、困窮世帯への継続的な現金給付などを提言しています。

6割超の親が「1日1〜2食」

回答した家庭が家計を維持するために出費を減らしている項目としては「食費」(84%)、「被服費」(74%)、「日用品費」(62%)が多くあがりました。

日々の食事では、「外食を減らした」(67%)、「おやつを減らした」(65%)のほか、「肉、魚を減らした」(63%)、「野菜を減らした」(50%)など栄養面での偏りが出ている様子もみられました。子どもの心身への影響として「必要な栄養素がとれていない」と答えた人が70%にのぼりました。

また、子どもに食べさせるために親の食事を減らしたり抜いたりしているという家庭は49%。保護者の1日の平均的な食事の回数は、1回(17%)と2回(47%)で6割超となり、3回(35%)を上回りました。

1日の食事の回数
出典:認定N P O 法人キッズドア 2 0 2 2 年物価高騰の影響把握のための緊急アンケート

自由記述では、給食のない冬休みに向け、切羽詰まった声があがっています。

物価高騰は生活を直撃し、このままでは食べていくのもやっと。これから年末年始にかけて学校なども休みになりさらに困窮してしまうので、早急に現金給付をしてほしい」

「普段からギリギリの生活でしたが、物価高騰で食べることもやっとの生活に変わりました。子どもへの影響は確実に出ています。子どもだけでも安定させたくて毎日必死です

少しでも出費を抑えるために、「暖房をつけないようにしている」(73%)、「電気をつけないようにしている」(51%)などと生活を切り詰めていることがわかります。これから出費を減らす予定の項目としては、「家族での外出の費用」(87%)、「クリスマスやお正月の費用」(79%)、「水道・光熱費」(66%)が上位となりました。

「子どもにとってはうれしいはずのクリスマスやお正月なのに、プレゼントもお年玉もない、年越しそばも食べられないような家庭があるんです。他の家庭と違ってうちはこんなに苦しいなんて...と気持ちが大きく落ち込む原因にもなります」(渡辺さん)

キッズドアの食料支援では、お米や餅、そばなど7000円相当の食品を送っていますが、食品の値上げによって昨年よりも少ない品目になってしまったといいます。

生活の影響
出典:認定N P O 法人キッズドア 2 0 2 2 年物価高騰の影響把握のための緊急アンケート

また「貯金ができなくなった」という人が59%おり、先行きの不安から子どもの教育にも影響がでています。

「ネットがつながらない」

高校生の子どもがいる家庭の回答635件からは、物価高騰が日々の学習にも影響を及ぼしていることがわかりました。

「塾や予備校に行けない」(54%)、「参考書が購入できない」(40%)、「模試が受験できない」(23%)、「オンラインの学習ツールを購入できない」(22%)などの回答が目立ち、教育格差にもつながっていると考えられます。

出典:認定N P O 法人キッズドア 2 0 2 2 年物価高騰の影響把握のための緊急アンケート

パソコンもネットもつなげられないのでオンラインなどの学習ができないです」

模試を受けたくても受けられなかったため、進路の判断材料が少なく、いつも『自分はどこの大学もきっと受からない』と先行きの不安をたびたび口にする」

大学をあきらめて就職

教育は貧困の連鎖を断ち切るためにも必要だとして、キッズドアでは無料の学習支援を続けています。

しかし、家計が厳しくなる中で進学をあきらめざるをえない子が出てきている、と渡辺さんは話します。

「家庭の経済的な事情を察して進路の話をしなくなった子や、進学や将来の夢をあきらめた子どもがいます。コロナと物価高騰という、まったく自分たちのせいではないことが起き、その時にたまたま高校生だったからというだけで人生の設計が狂わされるのは、あってはならないことです」

イメージ写真
Adobe Stock / milatas

調査では「経済的な理由で志望校をあきらめた」という人は19%にのぼりました。中には、大学に進学を希望していたものの就職することにしたという人もおり、卒業を控えた高校3年生でも急きょ進路変更を余儀なくされたことがうかがえます。

「進学希望でしたが、家計のこと、これから進学でかかるお金のことを考えて就職に変更し、家に給料を入れるねと言ってました」

「物価高騰で出費が増えたので貯金ができず、進学をあきらめ就職にきりかえた。まだ下に2 人兄妹もいるので」

「お金のかかる私立大学や専門学校をあきらめ、国公立一本で受験予定。落ちたら浪人するしかなく、その場合も予備校に行かせられないかもしれない」

「望んでいた大学が遠方にあり、交通費がかかる。また、県外にあるため少し学費が高くなるなどの理由で、違う大学に行くように進路変更を決めた」

またキッズドアによると、せっかく大学に合格しても、大学の入学金や学費の納付期限までに学費を準備することができないという人もいます。給付型奨学金が振り込まれる時期が、学費の納付期限に間に合わないことが原因です。

「せっかく合格して、何十万円かが準備できれば入学できるのに、それがかなわずあきらめた人がいます。実態に合わせて早めに奨学金を給付することと、入学金の納付猶予を大学の独自判断ではなく全国一律に適用することを、早急に国に検討してほしいです」と渡辺さんは話します。

キッズドアでは内閣府に提言を提出するとともに、緊急食料支援の資金にするためのクラウドファンディングも引き続き実施しています。

著者
小林明子
OTEMOTO創刊編集長 / 元BuzzFeed Japan編集長。新聞、週刊誌の記者を経て、BuzzFeedでダイバーシティやサステナビリティの特集を実施。社会課題とビジネスの接点に関心をもち、2022年4月ハリズリー入社。子育て、教育、ジェンダーを主に取材。
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