「みんな光り輝いとる」藤井風さんがインスパイアされた、スマホから生まれた短編動画
シンガーソングライター藤井風さんが書き下ろした曲をモチーフに、学生たちが28本の短編映画を制作しました。「子どもが自由に表現できるよう後押ししたい」というプロジェクトのねらいを聞きました。
このプロジェクトは、NTTドコモが30周年の節目に企画したもの。約2000件の応募の中から選ばれた小学生から大学生までの28組を映像制作のプロたちがサポートし、2022年の夏休みにそれぞれが短編映画をつくりあげました。
藤井風さんが書き下ろした新曲「grace」をモチーフにしている点は共通していますが、シナリオや撮影、編集はすべてオリジナル。小学2年生が友達との関係を描いた12分間の作品や、父親が亡くなってから時間が止まったように感じていた大学生が自らを投影した物語など、個性的な作品が生み出されました。
藤井さんは1997年、岡山県生まれ。幼いころからクラシックピアノを始め、12歳のときに実家の喫茶店で撮影したピアノ演奏の動画をYouTubeに投稿したことが、後に音楽の世界に飛び込むきっかけとなりました。できあがった映像作品を見た藤井さんは「自分にもこういう時があった」とコメントしました。
「みんな光り輝いとって、同じように光や才能を持っとるんや。お互いにインスピレーションを与え合って、世界をより素敵にしていきましょう。みんなの可能性は無限大で、なんでもできる」(docomo future project|「KAZE THEATER long ver」篇より)
プロジェクトを統括したNTTドコモブランドコミュニケーション部長の坂本秀治さんは、こう振り返ります。
「藤井さんの活動の原点がそうだったように、子どもたちにも自分らしさを自由に表現してもらいたかったんです」
坂本さんにプロジェクトのねらいをさらに詳しく聞きました。
技術的なサポートもする
ーーなぜドコモがこの映像制作プロジェクトをすることになったのでしょうか。
NTTドコモ30周年に合わせて何か新しい取り組みを始めるにあたり、30年間愛していただいた恩返しになり、永続的にできることがないかと考えていました。
10周年のときにはじめた「ドコモ未来ミュージアム」という子ども向けの絵画コンクールは、今年で21回目になります。子どもたちが描く絵はどれも個性的で、中には3年連続で応募している子や、コメントやメッセージを添えてくれる子もいます。子どもの創造や表現を企業として少しでも手助けできているのではないかという手応えはありました。
ドコモといえば、みなさんスマートフォンのイメージが強いのではないかと思います。いまはスマホを使って自分を表現したり、感情を伝え合ったりすることができます。絵画だけでなく、音楽や映像で子どもたちが自由に表現する機会もサポートできるのではないかと考えました。
そこで「すべての人には、才能がある。」をコンセプトに、動画をつくってみたい思いはあるけれどチャンスやきっかけがなくて立ち止まっている子どもたちを後押しすることを、プロジェクトのねらいに定めました。
YouTubeのチャンネルを運営して活躍している学生もいますが、おそらく一握りです。動画を見るのは好きだけれど自分がつくるとなると踏み出せないという子どもが大半ではないでしょうか。心理的なハードルだけでなく技術的なハードルもなくすために、映像や音響の専門家に講義をしてもらったり、オンラインミーティングを通して伴走するチューターを1組ずつつけたりと、制作のサポート体制も整えました。
公益性という自負
ーー長期的なプロモーションとしては大規模なプロジェクトのように見受けられます。
スマホや周辺機材、スタッフなどこちらが準備するリソースを自由に活用してもらって制作に集中してほしいというスタンスでしたので、恩着せがましくならないようあくまで裏方に徹し、ドコモの名前を前面に出さないようにしていました。
時間も予算はそれなりにかかりましたが、子どもたちが表現のおもしろさや達成感を感じてくれ、それぞれの人生に少しでも影響を与えられたとしたら、それがプロジェクトの直接的なリターンであり、意義はあったのだろうと思っています。
例えば「スマホ1円」といったキャンペーンは、短期的に利益を上げられたとしても、サスティナブルとはいえません。子どもの可能性を広げることは、企業が未来のためにできることのひとつですし、企業のサスティナビリティにもつながります。
好感度が上がって長い目でみて利益に結びついてほしい思いももちろんありますが、NTTドコモには公益性という側面もあります。
もともと日本電信電話公社が民営化したNTT(日本電信電話株式会社)の出資によって設立されましたから、社会から一定の公益性が期待されており、社員もそれを自負しています。
自社の利益を追求するだけではなく、インフラとしての役割や社会を変革していく役割を担うべき企業だという意識を社員が共通して持っているため、こうした社会性のある長期的なプロジェクトを進めやすい風土があると実感しています。
また、スマホやリソースを使ってもらうことで映像作品を作り上げるお手伝いをするという今回のプロジェクトは、企業理念と共通している部分があるんです。
私は以前、法人営業を担当していたとき、社会を豊かにする価値を創出するお手伝いをさせてください、とクライアントに伝えていました。なぜなら、私たちが通信サービスを生み出しても、それを効果的に活用してもらって社会が豊かにならなければ意味がないからです。
私たちはあくまで、通信サービスやネットワークや端末といった「部品」をつくる「部品メーカー」のような立ち位置なんです。
それらの「部品」を企業の製品に生かしてもらえたら付加価値がついてより優れた製品になり、その製品を使うお客様の生活がハッピーになるというBtoBtoCのビジネスなんです。人々の生活が豊かになり、結果的に企業も潤うというのが永続的なビジネスモデルだと考えています。
理不尽な制限をなくしたい
ーー子どもたちの自由な表現に注目したのはなぜでしょうか。
私はNTTドコモの設立から3年後の1995年に入社しました。当時、携帯電話を持っていたのは一部の経営者や政治家など、ごく限られた人だけでした。
1999年に「iモード」のサービスが始まり、携帯電話が急速に普及しました。自宅でインターネットができるようになり、仕事ではメールを使うのが当たり前になりました。
生活スタイルや社会がガラリと変わっていくのを目の当たりにした経験から、変化のスピードは今後ますます加速していくだろうと考えています。
今回のプロジェクトの進捗や学生たちの作品を見ていると、私が大学生だった30年前から社会環境は大きく変わったと改めて感じます。
当時は会社員になることが大前提で、会社に入ってどの部署に配属され、何をやるかは会社が決めるのが当たり前でした。
いまは選択の幅が広がり、会社に入る人もいれば入らない人もいますし、卒業してすぐ自分で会社をつくる人もいます。Web3の時代にはそもそも会社という存在が不要で個人が自由につながることもできるようになり、働く環境が大きく変わりました。
子どもたちはたくさんの選択肢に恵まれていてうらやましいと思う一方、チャンスがやってきたときに乗れるか乗れないかは、実力や思いだけでなく運や環境にも影響されることでしょう。そこに理不尽な制限があってはならないと思います。
藤井さんが書き下ろしてくれた「grace」の歌詞に「愛に従うのならば出来ないことなど何もないさ」というフレーズがあります。この「愛」というのは、子どもたちの背中を押すものだというのが私なりの解釈です。友達や家族のサポートだったり、物品や機会の提供だったり。周りから「愛」を提供してもらったら「出来ないことなど何もない」というメッセージに共感します。
チャレンジしたいけれど何か制限があって進めないのだとしたら、進むことができるように制限を取り払い、背中を押す存在であり続けたい。未来をつくる子どもたちの才能を伸ばしてあげたいし、才能に気づかせてあげたい。これが、大きな変化を経験した大人としてできることではないかと考えています。
あなたはわたし わたしはあなた
みんな同じと気付いた時から
僕らは みな等しく光ってる
何が出来るかな
愛に従うのならば
出来ないことなど
何もないさ
出典:藤井風「grace」