テストを白紙で出したのは、児童虐待のサイン。先生に相談したのは4人に1人
家族らから虐待を受けていることを学校に相談したという人は4人に1人。相談しなかった人の約8割が虐待に気づかれなかったことが、虐待経験者を対象としたアンケートで明らかになりました。SOSのサインを「見て見ぬふりをされた」という声もありました。
このアンケートは2021年6月〜7月、児童養護施設出身の若者の振袖撮影をサポートするボランティア団体「ACHAプロジェクト」が実施。児童養護施設出身者や子どものころに虐待を受けた経験がある人を対象にSNSで呼びかけたところ、1005件の回答が集まりました。
回答者は、女性823人(83.0%)、男性121人(12.2%)、その他61人(4.7%)。
年代は、20代が最も多く351人(34.9%)、次いで10代の263人(26.2%)で、10代から30代までの回答者がおよそ8割を占めています。
女性は「母親から」が最多
誰に虐待されたかを聞くと、女性は「母親から」と答えた人が最も多く、男性は「父親から」と答えた人が最多でした。「父親と母親」など複数回答もありました。「その他」と回答した人は、学校の先生や、塾や習い事の指導者などをあげていました。
アンケートでは、厚生労働省が定義する児童虐待の4分類で、どんな虐待を受けていたかも尋ねました。
・身体的虐待 殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首をしめる、縄などで一室に拘束する、など
・心理的虐待 言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的な扱い、子どもの目の前で家族に暴力をふるう(DV=ドメスティック・バイオレンス)、きょうだいを虐待する、など
・ネグレクト 家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、病院に連れて行かない、など
・性的虐待 子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にする、など
女性は「心理的虐待」と回答した人が最多で、次いで「身体的虐待」と回答した人が多く、男性は「身体的虐待」が最多で、次に「心理的虐待」と答えた人が続きました。2種類以上の虐待を受けたという人は699人で、4種類すべての虐待を受けていたという人が93人でした。
テストを白紙で出したわけ
虐待を受けていることを学校に相談したという人は、246人(24.5%)で、4人に1人という結果になりました。相談した相手で最も多かったのは「担任の先生」(52.6%)でした。
学校に相談しなかったという人の82.6%が「虐待を受けていることに気づかれなかった」と答えています。
厚労省によると、子どもに以下のような様子があると、家庭で適切な養育を受けられていない可能性が考えられ、虐待のサインとなりえます。
- いつも子どもの泣き叫ぶ声や保護者の怒鳴り声がする
- 不自然な傷や打撲のあとがある
- 衣類やからだがいつも汚れている
- 表情が乏しい、活気がない
- 夜遅くまで一人で遊んでいる
しかしアンケートでは、「気づいてもらえなかった」「見て見ぬふりをされた」など、様子の変化に気づいてもらえない、または気づいても見て見ぬふりをされて気にかけてもらえなかったという回答が少なくありませんでした。
「お風呂に入れてもらえずボロボロの服を着ていたら、授業中にバカにされてクラス全員に笑われた」「提出物が汚れていたら怒られた」「怠けていると思われて厳しく指導された」など、むしろ教師らの無理解によって傷つき、そもそも相談することを考えられないような状況に置かれていた人もいました。
また、虐待のサインについての自由記述では、「半袖を着てわざとあざが見えるようにしていた」「テストを白紙で出した」「助けてくれそうな人の前で大泣きした」など、なんとか周りに気づいてもらえるように自らSOSを出していた人もいました。
「中学生の頃、顔に血がついたまま担任と話したときに『どうしたの?』と心配はされたものの、職員室で周りに人がたくさんいたため何も言えなかった。その後は何も対応されず、話も聞いてもらえなかった」
「問題行動を指導されたとき、『なにかあった?』と聞かれて『大丈夫です』って言ってたけど、『本当は違うの。 助けて』って思ってたから、もう少しだけ介入してほしかったです」
何も変わらなかった
学校に相談したという人に相談後の対応を聞くと「何も変わらなかった」という人が最も多く、男女あわせて185人でした。
相談したときに先生にどんな対応をされ、どう感じたかは、自由記述で詳しく聞いています。
嫌だった対応としては、「話を聞いてくれなかった」「嘘だと決めつけられた」「親の味方をした」「何もしてくれなかった」「他の人に勝手に話された」などがあげられました。
「問い詰めるように質問された。萎縮してしまうし、親から『本当のことは言うな、また殴るぞ』と脅されているから、余計に何も言えなくなって苦しかった」
「『みんな頑張ってるんだから、あなたも頑張らないとね?』と言われた」
「『親のことを悪く言うのは良くない。殴るのも恫喝するのもあなたのため。子どもを愛していない親はいないのだから、全てあなたのためにしていること』と、虐待行為を肯定し、 それをやめさせたいと思う私を否定されました」
虐待がエスカレート
集計では、学校が親と話し合いをしたことで状況が改善したという人は7人、悪化したという人は28人となりました。
「家であった嫌なことを担任に話すと、親に電話で事実確認していた」
「親を呼び出して『あなたは虐待をしているのか』と聞いたため、虐待がエスカレートした。児童相談所の介入などはありませんでした」
「話したことが親に伝わると余計にされるから言わないで、と伝えたのに、親に連絡した。他の人に聞かれるような職員室や廊下などで、『親とはどうか?もうされてないか?』などと聞かれた」
学校の対応によっては、状況がより悪化したケースもあることが確認されました。
「いつでも連絡しておいで」
一方、相談したときにうれしかった対応としては、「児童相談所につないでくれた」「スクールカウンセラーと話す時間をつくってもらえた」「学校に長く残れるようにしてくれた」「朝ごはんやお菓子をくれた」などがあげられました。
「すごく酷い虐待だったから偏見を持たれるかと思ったけれど、親身になって聞いてくれた。私が泣いてしまっていたので優しく抱きしめて慰めてくれたことがうれしかったです」
「『今までよく耐えてきたね』って言葉にジーンときた」
「虐待のことを相談したときには『話してくれてありがとう』、家出をしたときに『無事でよかった』と言ってくれた」
「子どもの人権について教えてくれた」
「一時保護されている間、学校に行けなかったがよく担任が訪れてくれて手紙も毎月送ってくれた。持ち込みはできなかったけど預かってもらって退所とともに受け取り、今でも保存しています」
「担任の先生はずっと向き合おうとしてくれていました。私が何も答えなかったからか、言葉でまっすぐ伝えるわけじゃないけれど心で『あなたの味方だよ』と伝えてくれていました。卒業のとき『何かあったら絶対助けるから』『そうじゃなくても、いつでも連絡しておいで』と連絡先を教えてくれました。『助けて』の一言はずっといえなかったけれど、 長く細くつながってくれている大人が1人いたから、どんなにつらくても命を投げそうになっても、なんとかいま耐えられています」
調査結果をまとめたACHAプロジェクト代表の山本昌子さんはこう話します。
「相談したのに『見て見ぬふりをされた』や『信じてもらえなかった』という記述が多くみられたことで、聞く側である大人が問題意識をもつことが必要ではないかと感じました」
「何があってもまずは子どものSOSを信じること、耳を傾けることから始めてほしいです。虐待の発見はとても難しいようでいて、実は大人が少し意識を変えるだけでも状況は良くなるのかもしれません」
児童虐待かも...と思ったら、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」にかけると近くの児童相談所に通話無料でつながります。通告・相談は匿名ですることができます。